これからのこと……
レジデンス連合国の魔導術士中央本部。
ネティアスに連れてこられた技術局長室の応接間。いろいろなインテリアが飾られてあり、どれも一級品の代物だとひと目でわかるレベルだ。
ソファーもふかふかで、このままここで寝てしまえると私は思ってしまっていた。
ぐぅ~。
「ク、ククルちゃん、寝ちゃダメ」
『起きてます』
「虚ろな目で言われても説得力ないよ……。完全に反応が遅れてたよ!」
サラにツッコミを入れられてしまい、なんとか私は受け答えしたがダメでした。
この気持ちのよいソファーは、人間をダメにするソファーだ。ここまで良いものでなくてもいいから、私も欲しいと思ってしまう。
そんなことを思っていると、ネティアスが資料を片手に向かいのソファーに座る。
現在、ここにいるのはネティアスを入れて私とサラとエリスだ。エリスからの資料に目を通してから私たちのほうを見つめてくる。
「2人とも、もう安心していいですからね。私の庇護下に入ったので悪さをする者は出ないと思うわ」
「あ、ありがとうございます!」
がっちがちになりながら、サラが答えるのをくすくすと笑うネティアス。
緊張しなくていいと言われても、この状況下で緊張しないほうがおかしい。
私? 私はそこまで緊張はしていないが、たまにこちらへ目線がくるのが少し怖いと思うくらいだ。相変わらず足に力が入りにくい。
いつになったら治るのやらと思いながら、ふくらはぎを揉む。
「それで、ククルさんだったわね。あなたに質問があります」
まっすぐ私を見つめるネティアスに私はなんだろうと首を傾げてみる。
「あなたの背中の術式を見せてもらえますか?」
『?』
背中の術式とはなんだと頭の上にクエスチョンマークを出してしまう。
なんのことだというのが本音だ。自分の背中にそんなものがあったのかと今知った。そういえば、川で水浴びをしたときにサラが私の背中をチラチラと見ていた。それに、最近の検査も背中の検査だったような……。
あれ? これって知らなかったのは当の本人だけということになる。なぜ、皆がそれについて触れてこなかったのかわからない。
「え? ククルちゃん、背中の術式のこと……知らなかったの?」
「いや、それはないだろう……」
サラとエリスがそう口にしたあと、私の表情ですべてを察したのだろう。
苦笑いを浮かべてしまっていた。ネティアスもそうだ。
しかし、いつそのようなものが私の背中に現れたのだろう。私はまったく気が付かなかった。いや、なにも感じなかったから仕方がないかと考えるのをやめた。
「とにかく、それを一度せてもらえるかな? 送られてきた術式と確認も兼ねてだけどね」
『いいよ』
隠すほどのものでもないので、私はボードにそう書いた。
それに、どのような術式なのか私も興味がある。合わせ鏡なら見えるだろうかと思いつつ、私は背中をネティアスに向けて、背中の術式が見えるようにした。少しして、ネティアスから「もう大丈夫」との言葉を聞いたので、服を直した。
振り返ってネティアスの顔を見ると、満面の笑みを浮かべていたことに対して、私は嫌な予感がした。なんとなくの感覚だが、これは当たるので厄介だと思いながらもその笑顔に笑みを返す。
「エリス、2人の今後だけど……、もう決定しているの?」
「えっと、まだです。今のところ生活の基盤が出来上がるまでの補助が2ヶ月と仮住居、あとククルさんの治療ですかね」
「ふーん、なるほどね」
ネティアスは唇に人差し指を当てながら、私のほうを見る。
サラは、手厚い補助に私にどのような住居かなとわくわく感がにじみ出ていた。もう、可愛い子だなぁ。あと金銭等はサラに任せよう。私はそこら辺がずぼらだからだ。
親鳥ことサラにまかせるのが吉だろう。
「治療だけど、私の研究所に連れてきてちょうだい」
「え? ネティアス師匠のですか?」
「そうよ、そのほうが手っ取り早いしね。その術式の解明も病院ではどうにもできなかったでしょ?」
ネティアスの指摘に、エリスは頷いた。
「そうですね。ネティアス師匠なら解明できるでしょうからそうしましょうか。ククルさん、それでかまいませんか?」
『大丈夫』
「はい、それじゃあ、よろしくね。ククルちゃん」
何やら実験対象の目で見られているようだが、私の回復もしてくれるのなら致し方ないか。
それに、こっちに拒否権もないだろうし。保護してもらっている立場なのだから。
それから、いろいろな手続きのために名前を書いていく。私はこの体の持ち主であるククルという名前で、署名していった。
サラも署名していると、エリスがサラの名前に違和感を覚えたのか口を開いた。
「サラ・アグリアス……」
「え、えっと、変ですかね?」
「いえ、エストル王国でアグリアスという名前をどこかで聞いたことがあるのですが……」
「あ、えっと、多分ですが……。私のお父さん……マルクス・アグリアスだと思います」
「ああ!! 地裂の魔導術士のマルクス・アグリアスさん……って、ちょっと待ってください。あなたがアルダール帝国で捕まっていたなどとわかれば、マルクスさんがアルダールへ乗り込んでいくはずでは?」
エリスは驚きの表情を浮かべて、サラにそう言った。
しかし、サラは俯いて現在マルクスは行方不明ということを伝えた。
「エリス……、あなたはなぜ名前を確認してないの……」
「すみません……」
「エ、エリスさんは悪くないです! 私が隠していたので……」
怒られているエリスにいたたまれなくなったサラは、そのように擁護していた。
その後は、すべての手続きが済んでエリスに仮住居へと案内されるのであった。
◆◆◆◆
ククルたちがいなくなった応接間。
ネティアスはくすくすと笑っていた。
「魔女の器がまさか自我に目覚めていたのか……。それともあの器の中に何か別のものが入ったのか……。おまけに、なんの因果か目を持つ者もいるなんてね。魔女の館からの研究の成果なんて出ていない……。となると、あのククルの中に何かあるということよね。うふふ、明日から楽しみだわ」
蘇った始まりの魔女は幸せを掴みとる! 柊むぅ @hiiragi_mulu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蘇った始まりの魔女は幸せを掴みとる!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます