魔女と対面
国境の街のアルダール帝国側で、1人の女が時計を見つめながらくすりと笑う。
ベンチに腰掛け、2人の護衛らしき者を連れてである。
「そろそろ突っ込んだかな? うふふ、魔列車を1つ失うとかなりの軍事力が落ちるのは、どの国も同じよね。レジデンス連合国だけ未だに全車両が生きてるって不公平と思わない? それに、あのヒューマンとエリュシィーのコンビは甘いから、どうせ失敗するだろうし。私がテコ入れしてあげないとね」
「「……」」
2人の護衛らしき者は、女の言葉にまったく反応をしない。
まるで、人形のように微動だにしない。
「うふふ、まぁ、あいつらが死んじゃってもなんの損もないわけだし。ハイヒューマンの始末もできて、一石二鳥よね。適当なやつを傀儡にして、魔導爆弾を付けたらできあがりのお手軽テロ。アルダール帝国の仕業だなんて、わかってても証拠も残らないからどうしようもないでしょうね。あははは」
その女は、仕事が終わったといわんばかりに大きく伸びをしてから、人混みの中へと消えていくのであった。
◆◆◆◆
中央へと到着し、辺りは人でごった返していた。
氷の壁で止められた魔列車の機関車両は、かなりのダメージを受けており、修復にはかなりの時間がかかると予想される。ただ、あのまま暴走列車としてホームに突っ込んでいたら、完全に大破していただろう。
こうして、損傷は激しいが時間をかければどうにかなるレベルですんだのは、不幸中の幸いだろう。
技師たちも修復部分をどんどん書き出していた。
「ベアリングも替えないとダメみたいですね……」
「こっちは魔法キャンセラーと魔導回線もやられてる」
「内部は……問題ないようで……。ん? す、すいません! イングリッド技師局長、来てください!!」
1人の技師が声を上げてイングリッドを呼ぶ。
イングリッドは、ただちにその技師の下へ行って中を確認した。
「くそ……核の術式に影響がでてやがる……。暴走したせいか……」
イングリッドは、鉄板を拳で叩き苦虫を噛み潰したような表情をする。
魔列車の心臓部である精密術式が格納してあるコアだ。これが魔列車のレールを作り出したり、魔物を寄せ付けないようにする制御などを担っている。全体のバランス配分もそうだ。ほんの少しの誤差すらきっちりと調整する。現在ではこれに手を付けられる者はいない。
それを見た他の技師たちは、イングリッドに声をかける。
「イングリッド技師局長! こんなことで諦めるなんて言わないですよね?」
「そうですよ! 私たちは諦めないですよ」
「ちょうど、魔列車の核の修理をしてみたかったっすからね」
諦めかけていたイングリッドは、技師たちの言葉に自分が諦めたら終わりだと自身を奮い立たせて、全員に命令を下す。「
「ああ、イングリッド家は代々こいつを受け継いできたんだ! 絶対に直すから、お前らも付き合えよ」
「「「「了解!」」」」
全員が綺麗にハモって、広いホームの中に響き渡るのであった。
◆◆◆◆
ククル視点
技師たちが真剣な目で魔列車の修理を始めている中、弱った表情を浮かべる2人組がいる。
ヒューマンの女性とエリュシィーの男性だ。
今回、魔列車で賊の制圧を手伝ったことで、エリスから感謝の言葉をかけられ、戸惑っているといったほうがよいだろうか。
サラにおんぶされたままの私は、その2人をジッと見つめていると、私の視線に気がついているのか、とても居心地の悪そうな表情をする。
「本当に助かりました。制圧もあなた方のおかげもあり、けが人もなく取り押さえられましたからね」
「あははは、そんな大層なことしてないよ」
「ちょっと、ジーク、早く切り上げて」
「いやいや、アヴィス、待ちなって……。そんな焦って行く旅行じゃないだろ?」
パチンとウインクをして、何か合図を送っているように見えるが、それは私の思い過ごしなのかもしれない。だが、少し気になる。
この2人は、かなりの手練れだ。たぶんだが、エリスもそれに気がついているからこうして足止めをしているようにも見える。
そして、もう1人の人物の登場でジークとアヴィスは頬が引きつっていた。
「エリス……、弟子であるあなたが居ながら……なぜこのようなことになっているのかな? 私に説明できるか?」
異様な魔力を放つ女性。
エリスに対して、かなりの威圧を放っているようだ。
「ネティアス師匠……、申し訳ないです。すべて、私の考えが甘いばかりにこのようなことになってしまいました」
大真面目にエリスはネティアスに頭を下げると、ネティアスは大きな溜め息を吐いてから、あとで自分の執務室に来るようにとだけ伝えてからジークとアヴィスを見る。
笑みを浮かべてから2人に近づいて、たった一言2人の耳元で呟いてから離れた。
2人の表情が完全に引きつっている。私は今の言葉が聞こえなかったが、核心を突かれたのではないかと思う。
「さぁ、あなたたちはもう行っていいわよ。変なことは、この中央では考えないほうがいいわよ。誰に見られているか……わかるのであればね」
含みを持つ言葉に、2人は苦笑いを浮かべて一礼をしてから去っていった。
エリスは2人を逃してよかったのかと目で訴えているようだったが、まったく問題なさそうだ。
私はネティアスを見つめながら、これが魔女か? と思いつつ首を傾げる。
魔力の質は十分強いが、彼女が体に纏っている魔法がおかしいのだ。そう、私が作り上げた魔法のそのまま使っているといったらいいだろうか。完成してない魔法。私の細工に気がついていないといったらいいのか。
これでは、魔女ではなく……魔女見習いだった子たちと同じだ。
妙な感覚に頭を悩ませていると、目の前にネティアスが立っていた。
「あなたたちが保護された子ね」
「は、はい! サ、サラと申します!」
サラはがっちがちになりながら、ぺこりとお辞儀をした。
私はそのお辞儀の勢いでボードを見せる。
『ククルです』
「うんうん、可愛い子たちだね。とりあえず、一度本部に連れて行こうか。いろいろと気になることもあるからね」
ネティアスは私の顔を見つめてそう言った。
何かを確かめたいという感じがする。
「はい、わかりました。ティナ、グレゴリーお願い」
「「はい」」
エリスの言葉に、2人は荷物を運んでいく。
私たちはネティアスに連れられ、本部へと向かうのであった。
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