現在の魔女の存在

 機関車両をなくして止まった17の車両。

 乗客たちは、自分たちが生きているということに歓声を車内で上げていた。

 しかし、その中で悔しい顔をしている者もいる。

 私はサラにお腹を抱えられて、勝手な行動が取れないように捕まっていた。サラから『全部を私がどうにかしようとすることは無理だよ』と言われ、悔しい反面その通りだと思った。理想を追い求めても、こちらが壊れるだけ。

 それは、あのときわかっていたはずだ。

 だが、それでも私は理想を追い求めてしまった。

 結果は散々だったが。なかなか、自分自身の本質というのは変えられない。

 体が勝手に反応してしまうのだから仕方がないといえばいいのかな……。

 私がいなくなって約700年走り続けた魔列車の最後が、私が乗ったときとは……なんとも言えない気持ちになる。

 もっと活躍できたはずなのに、私が巻き込んでしまったのだろうかと思ってしまう。

 直せるなら、直してやりたい。

 私が辛気臭い表情をしていたのがわかったのか、サラが私の頭を撫でてくる。その光景をエリスたちが微笑ましそうに見てくるが、今は避難が最優先。

 私の車椅子は爆発吸収に巻き込まれたのか、突風で飛ばされたのかわからないが、車両にはなかったらしい。

 おかげで、サラにおんぶされることになる。

 車両から降りた私たちは、背筋がぞくりとする魔力にさらされた。

 膨大な魔力を検知でき、サラも肩がこわばっているのがわかる。



「大丈夫ですよ。これは私の師匠のものですから……。よかった、いらっしゃったんですね」

「え、技術局長様がいらっしゃるんですか!?」



 エリスの言葉に、ティナが反応する。

 目をぱちくりさせる辺り、大物のようだ。

 私は、気になってボードに書く。



『誰?』

「ああ、ククルちゃんたちは知らないかな? かなり有名だけど」

「唯一、魔女として活動を許されてる人で、現レジデンス連合国の国家魔導術士技術局長の座に君臨している方です。生き神として崇められるんですよ。ネティアス様は」



 ティナの言葉に、私は違和感を感じる。

 魔女は世界に害をなす者として忌み嫌われる存在のはずだ。なのに、国が認めているとはどういうことだと。



『魔女は忌み嫌われてるのでは?』

「あ~、ネティアス様は少し変わった経歴の持ち主なんですよ」



 ティナは、ネティアスがどのような経緯で今の地位にいるのかを説明してくれた。

 元は貴族で、今から100年前にネティアスは魔女であることを現レジデンス連合国になる前の小国で打ち明けた。

 戦乱の世の中で、それをどうにか収めたかったためにだ。ネティアスは、自身の貴族としての地位をすべて捨ててから、当時の王に謁見して自分の力を混乱する世界を沈めるためだけに使わせてくれと言ったといわれる。

 名乗り出た魔女は始まりの魔女以来。

 ネティアスの力は世界を統一すらできると言われるレベルであり、戦場でネティアスが現れるだけで戦況はひっくり返らせることなど容易かった。しかし、ネティアスは兵器のみを壊して、相手の指揮を削ぎ落とすことを最優先して行動をした。

 最小限の犠牲で終わらせる戦争をしたのだ。だが、それでも多くの戦死者が出たのは事実。

 魔女は強力な兵器となることは、過去の文献でわかりきっていることだ。それ故に、利用されたりすることだってあるのだから、簡単には名乗り出ることなどできないし、バレてもならない。

 もしも、魔女だとわかればその者の世界は変る。国から命を狙われることだってあるし、人々から化物と忌み嫌われる。まともな生活などできはしない。

 それでも、戦乱を止めるために名乗りを上げたネティアスは、戦乱を一時的にだが終止符を打つことに成功した。

 そのあとは、1つの国に力が偏ることは必ず摩擦を生むとして、中立な立場を取ることを世界に声明を出し、魔法の向上と生活の向上をどの国でも平等にすることを魔女の契約で示した。

 魔女の契約は、必ず守らなければならないとされるものだと文献にも書かれてあったことから、他の国も納得した。

 そして、国家魔導術士技術局という組織を全部の国に配置することで、技術の交換を円滑にできるようにしたとされ、生活水準はほとんどの国が向上した。

 それからは、壊滅した街などの修復などにも尽力を尽くした。戦争の爪痕は、簡単には消えない。

 それを直している間は、周りも魔女という存在に恐怖などは芽生えなかった。

 現レジデンス連合国になってからは、元々の功績もあり、そのまま局長を続投している。中立な立場とはいえ、目に見える兵器なのだがら他国にはかなりの抑止力にもなっている。

 しかし、現3ヶ国の中に魔女や魔法使いを保有しているが、それを宣言していないだけであって、保有している国はある。

 魔女たちは単体でも兵器だが、その魔導術式もかなりの強みとなる。武器にその技術を使えば、格段に向上してしまう。

 それは、魔女を保有しているということがまるわかりなため、各国はだんまりを決め込んでいる。確実に勝てるときにそれを使わなければ、反対に潰されるためだ。

 現在、エストル王国とアルダール帝国の戦争は、完全ににらみ合い状態。どちらかが引き金を引けば、簡単に開戦してしまう状態でもある。一向に進展しないため、最近はアルダール帝国からレジデンス連合国に対しての挑発もあるが、どこの国がやったという証拠が掴めないため、なかなか面倒なことになっている。

 中立を宣言しているため、アルダール帝国に手を出せばエストル王国に加担していると難癖をつけてくる。そうなれば、魔女を使って力でねじ伏せるのかと煽られるのは目に見えている。

 簡単に手を出せない状況に、今は耐えるしかない。



「そんなわけで、ネティアス様は凄い方なのと、今回の魔列車の襲撃はアルダールの仕業だということです! 尻尾出さないから面倒なんですよねぇ」

「おい、ティナ、アルダールの仕業と決めつける言い方と魔女の保有の発言は、国際上面倒になるから気をつけろよ」

「う~、そうだった! ククルちゃん、サラちゃん、アルダールのくだりと他国の魔女の保有は、しーだよ!」



 グレゴリーのツッコミに焦ったティナは、私たちに飴玉をよこして口封じにでる。

 まぁ、甘いのは好きなのでこれで口はつむりましょう。

 私はコロコロと口の中で飴玉を転がしていると、サラは先ほどの話に対して驚くことはなかった。たぶん、知っていたのだろう。

 私は700年もの歴史がないだけに、今回の認定された魔女のことは知らなかったが、成功したのかと思う。

 私は失敗してしまった。ネティアスという魔女のことが羨ましく思う。

 ただ、目の前に感じる魔力に少し違和感を覚える。

 ティナの話を聞いていて、魔女ではあるのだろうけど……。

 そう考えていたら、迎えの機関車両がこちらへ向かってきた。

 技師たちはそれを客室車両と連結させ、私たちはもう一度車両に乗って中央へとゆっくりと向かうのであった。


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