第5話「しまった! という話」
落城寸前の城で、地下への大移動が始まった。
数千人規模の人数が
だから、ナルリは出ていった。
自ら
そして今、さらなる時間を稼ぐために
「遊馬、君達にはすまないと思っている。その上で、頼む」
「大丈夫ですよ、アイゼルさん。彼女は、ナルリは異世界から来た救世主ですから。そして僕は……そうですね、あらゆる異世界の
「そ、そうなのか? よくわからんが……だが、今は信じて頼らせてもらう」
「色々ありがとうございました。アイゼルさんはお姫様と一緒にいてあげてください。自分は最後でいいって聞かないもんですから。あとは、
それだけ言うと、よじ登るようにして遊馬は騎馬に
乗馬の経験などなく、見よう見まねだ。
だが、彼がぎこちないなりに馬に乗れるのには訳がある。
アイゼルが開門を命じ、
ひしめくオークやゴブリンの群へ向かって、遊馬は走り出した。あっという間に周囲の
「ゴブッ!? 一騎出てきたでゴブ!」
「待て待て、リッチ様から手出し無用と言われてるオーク!」
「そうでゴブ、
「止まれ、止まるでオーク!」
――リッチ。
それが
千年の時を
そして、リッチが約束を
居並ぶ魔物達を
アイゼルの相棒だった
遊馬はそっと身を低くして、振り落とされぬよう身構えつつ
「さて……僕の言葉がわかるね? お馬さん」
さも当然のように、
「事情は聞いてるぜ、ボウズ。……しっかし驚いた、ソロモンリングの
そう、馬が喋った。
遊馬の予想通り、馬は人間の言葉を理解し、人間の言葉を返してくれる。
だから、乗って走らせるのも簡単だったのだ。
全ては、馬がソロモンリングと呼ぶ指輪のおかげである。
馬は苦もなく大軍団の大海原を突き抜けた。
「ボウズ、ソロモンリングはあらゆる世界線に72個しか存在しない
「詳しいんだね」
「人間は俺等と話せないだけで、自分達が一番賢いと思ってるからなあ。悪いが俺等の中では、ソロモンの女王の
それはさておき、と笑って馬は喋り続ける。
「ボウズはもう気付いてるんだろう? ソロモンリングの力に」
「だいたいね。この指輪をくれた人が言ったんだ……知りにおいで、と。つまり」
「そう! その指輪は門を開く
「まあ、通り道に住んでるからね。さて」
不思議と恐怖は感じない。
それもソロモンリングの力だろうか?
そうであっても不思議ではないが、もっと
世界の危機を救う少女の、その危機を救う。
困っている女の子のためなら、なにも
まるで自分が、物語の主人公になったかのような
「さあ、しっかりつかまってな! 俺も久々に燃えてるぜ……一気に突っ切る!」
遊馬は目を
いくつか
それは、夜明け前の空気が不意に
今、
「おのれ、人間っ! たばかりおったな……この姫は偽物ではないか!」
「ちょっと、汚い手でどこ
ナルリを
恐るべき負の力は、周囲に
遊馬は馬を降りて、礼を言って別れる。
だが、リッチを見てはいない。
遊馬の
「小僧! どう料理してくれよう……
「ナルリ、面白い話が聴けたよ。さっさと片付けて帰ろう」
「貴様ぁ! このワシを無視するなど――」
「そうそう、あとね。この世界で一番賢いのはネズミ、二番目はイルカだって。人間はずっと下……その
「どこまでもワシを
リッチは乱暴にナルリを突き飛ばすや、骨だけの全身で
周囲のコボルト達が、巻き添えはゴメンだと逃げ始める。
だが、遊馬は冷静だった。
もうナルリに秘策を伝えてあるから。
「さて、じゃあ物語を
自分でも信じられない、大きな声が出た。
全力で走り出す背後に、巨大な落雷が落ちる。リッチの魔法が次々と炸裂する中で、遊馬は突進する。リッチへ……その背後で立ち上がる、ナルリへと向かって。
そして、遊馬は無様でみっともない姿も気にせず、リッチへ
「くっ、小僧! 放せ! ええい、このままワシごと焼いてくれようか!」
「今だ、ナルリッ!」
「む……? こ、これはっ!? 吸い込ま――」
勝負は一瞬だった。
遊馬はただ、身を浴びせたリッチをナルリへ向けて押し込む。
ナルリは突き出す両手にあれを握っていた。
そう、
あっという間にリッチは、小さなポーチに吸い込まれて消えた。
そして、そのままリッチを押し込んだ遊馬は……両手を広げたナルリの胸の中へ倒れ込むのだった。
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