第4話「偉大なる刻の女王」
地下深く、
「誰もさ、あたしの力なんか必要としてないよ。だって」
遊馬はただ、
「あたしが持ってきたもの、何一つ役に立たなかった。ネットが繋がらないだけで、あたしは無力だなんて……思いもしなかった」
結んだ手と手の中で、二つの指輪がかすかに響き合う。
その小さな空気の震えを引き寄せるようにして、遊馬は立ち止まった。
ナルリへ振り向き、間近で見上げてくる彼女の
それは、彼にとっても意外な言葉で、同時に素直な気持ちだった。
「ナルリ、誰も君の力なんて欲してないし、超科学文明の便利アイテムだっていらない」
「そう、だよね……じゃあ、なんで? どうしてあたしを――」
「僕が必要なのは、君だ。君なんだよ」
「え……?」
「君に力がなくても、凄い道具がなくても……ネットに繋がらなくても、君が必要だ。君しかいらないよ、僕は」
言ってて自分でも照れて
だから、再びナルリの手を引いて歩き出す。
「僕はね、ナルリ。ずっと自分の部屋で見てきた。色々な世界が繋がって、そこを行き来する人達を。人ですらない『なにか』は
「う、うん」
「初めて声をかけた人は、僕にこの指輪をくれた」
「あたしも! ……あたしも、多分同じ女の人に、会った」
「そして、僕をあの部屋から連れ出したのは、君が初めてさ。ね、ナルリ……僕と一緒にここへ来たのは、君だろう? 君だけ、君でしかないそのままのナルリだろ?」
そう言って、遊馬は自分にも言い聞かせる。
この絶望的な状況に飛び込んだ、そのことになにかしらの意味があるかもしれない。それを見出すのは、意義のあることだと思えた。
探してなければ作ればいい、ナルリと二人の異世界でなにかができる
その想いを自分の中に確かめていると、不意に視界が開けた。
地の底まで続くかのような
そして、祭壇らしき場所と巨大な円環の前で男が振り向く。
学者風の老人達を連れた、騎士アイゼルだ。
「来たか、遊馬」
「彼女も一緒ですが構いませんね?」
「
不思議な光沢で輝く輪っか、
大きさは直径3
すぐに遊馬は、
だが、まずはアイゼルの説明を聞く。
「これは我々の世界では『
「なるほど、アイゼルさん達はこれを当てにして城に逃げ込んだ」
「そうだ。だが、全く起動しない。この大陸でないならば、どこへだって逃げるつもりで来たが……思えば、姫は
「ナルリ、あの門を見て。……見覚えがないかい?」
遊馬の言葉に、ナルリは大きく
二人の繋いだ手に光る指輪……それに浮かぶ文字と同じだ。
そして、不意に門が
目の前の円環は無数の文字を揺らめかせながら回転を始めた。
そして、その中心に発生した
『我はソロモン、偉大なるソロモンの女王なり。ん、おや? ふむ、ボウヤは……久しぶりだねえ、大きくなったもんだ』
その人影を見て、
それは、白い髪に白い肌、真紅の瞳で自分を見詰めてくる女性だった。以前と同じ
『その世界は随分前に私が攻略してしまったからねえ。最後に門で飛んでから、千年ちょっとくらいだろうか? 悪い魔法使いをやっつけたから、もういいと思ったのさ』
「千年前。悪い魔法使い。もしかして」
遊馬の疑問にアイゼルも言葉を失う。
外の軍勢を率いる不死の王、その正体は……千年前に死んだ魔道士だ。それはもしかして、例の女性が倒した者と同一人物かもしれない。
それを伝えたら、映像の中の彼女は愉快そうに
『そうかい、
それだけ言うと、ゆらぐ光の中で女性の像が薄れてゆく。
完全に光が消え入ると同時に、遊馬の背後で声が響いた。
振り向けば、亡国の姫君が立っている。
「アイゼル、そして異界の者達。門が動いたようですね。では……民を集め、この先へ。それまで、私が敵へ
そう言うと、姫は長い長い
守り刀と
「私はこれより女を捨てます。アイゼル、民を頼みました」
死を覚悟した姫の視線は、アイゼルの眼差しに
行き交う特別な感情を感じていると、遊馬の隣でナルリが叫ぶ。
「そんなの
「しかし、そなたは」
ナルリは不意に、腰のポーチに手を突っ込んだ。
引っ張り出されたのは、不思議な
「これは、あたしの家に先祖代々伝わる、ラグネリアの秘宝。星をも
そういえばナルリは、先祖伝来の
そして、彼女は遊馬をも驚かせる。
「これ、お姫様にあげるっ! ここから先も全ては続く、繋がって
「そなたの家の宝でありましょう」
「あたしは、あたしだけが必要だって言う人、いるの! あたしは自分だけで、きっと大丈夫! 行こう、遊馬……時間、稼がなきゃ! あたし達二人で!」
ナルリの声が、ようやく勝ち気な強さを取り戻した。
遊馬は改めて頷くと、
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