第8話

「みんなに伝えてよ! あたしが次の語り部になるのよ!」


 周囲にざわめきが広がり、鍛冶師のだれかがひょいと彼女をかついだ。かつがれたまま、彼女はヒルコを探した。ヒルコはちゃんとそばにいてくれて、彼女を見上げたまま、ずっと後をついてくる。

 鍛冶師の野太い声が叫んでいる。


「語り部が選ばれた! カグツチに選ばれた!」


 彼女は訂正しようとヒルコの名前を言おうとした。


「それでいいの、あたしはだれも知らない神だから」と、ヒルコは黙るように合図した。


 彼女は鍛冶師たちのされるがままになっていた。

 次第に人が多くなってくる。闇の民のざわめきが聞こえる。ほとんどすべての闇の民が彼女を見守っている。

 彼女は体中でその気配を感じていた。

 地に降ろされ、すぐにヒルコと手をつないだ。

 ようやく、器は満たされた。


 独り神のヒルコとふたり、ヨリタマは語り部として生きることを受け入れた。

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依魂神(よりたまのかみ) 藍上央理 @aiueourioxo

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