《終》本当に怖いのは……

 大手チェーン飲食店でのバイト時代、同じバイトの後輩に聞いた話です。


 その日、後輩は他店舗にヘルプとして行きました。

 到着して制服に着替えていると、「ちぃーっす」と半ヘルと被った金髪の若者が入ってきました。

 同じ時間に入るバイトのようです。

「いやー、昨日マジ最悪だったんすよ」とヘルメットを取り、シャツを脱ぎながら部屋にいたバイトに話しかけます。


 ヘルプに来ている人には挨拶をするのがマナーなのですが、金髪は後輩を無視してバイトに話しています。少し不満に感じながらも、柄も悪そうだしあまり関わらないようにしよう、と思ったそうです。


「夜中に友達から電話かかってきたんすけどー、なんか人轢いたとか言うんすよ」


(え?人を轢いた?)と後輩はその言葉にびっくりして金髪を見ました。

 しかし、金髪は別に声を潜めるでもなく、世間話をするような緊張感のない口調で話を続けているので、後輩はもしかしたら自分が聞き間違いをしただけかもしれない、と思いました。

 しかし、気にはなったので着替えながらも聞き耳を立てていました。


 すると、やはり金髪の友人が人を轢いたという話なのです。

 もちろん、話をされているバイトの人も驚いて詳細を聞きました。すると金髪は制服に着替えながらだるそうに答えました。



「なんか交差点でおっさん轢いたっつーんすよ、まだピクピク動いてんだけど、やばいからこれから埋めに行こうと思ってんだって。暇なら手伝ってくれ、って言うんすよ。夜中でもう寝ようかなって思ってたんで、面倒くせえから嫌だって断ったんですよ」


「マジの話なん?」と聞いている人も眉間にシワを寄せています。


「いや、多分マジなんじゃないすかね。で、他の奴に頼めよって言って俺は寝たんすけど、朝、起きて携帯確認したら『他の人、見つかったからどうにかなったわ。サンキュ』ってメールが来てたんすよ」


「何それ、やばくねえ?」と聞いている人もドン引きしています。


「やばいっすよね。あんまりそいつと関わらないようにしようと思ってます」


 そう言って、制服に着替え終わった金髪は「(バイトに)でまーす」と言ってバックルームを出て行きました。


 後輩はその話の真偽を確かめることもできずに、悶々としたまま帰ってきました。


 本当に怖いのは……人です。



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怖い・不思議・嫌な話 ボンゴレ☆ビガンゴ @bigango

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