1000文字殺人事件

雲江斬太

第1話

 生徒会長・姫宮桜子の正体は、アブサン・ヴァンパイアであった。

 数百年を生きた暗黒の存在である彼女は、ニガヨモギの葉っぱを触媒に、学園の生徒たちの心を自在に操り、あまつさえ彼らの精気を吸い上げて、自らの命の糧としてきたのだ。

 しかし、彼女は死んだ。誰もいない生徒会室で、姫宮桜子はその不滅の命を絶たれたのだ。一体なぜ……?


 姫宮桜子の死体の第一発見者は、生徒会副会長の柏木逸郎だった。

 桜子の姿が見えず、鍵のかかった生徒会室の扉を外からノックしても、反応がなく、嫌な予感に苛まれた彼は、古い木造の扉に何度も体当たりし、強引に生徒会室の扉を開いた。そして、古臭い木造校舎の一室で、こと切れている桜子を発見したのであった。彼女の亡骸の周囲には、細かく千切られたニガヨモギの葉が、美しい死体をデコレートするように散らされていた。


 遅れて駆け付けてきた生徒会役員の梅原麻衣が、室内の惨状と桜子の死体を見て悲鳴を上げた。

 だが、柏木逸郎は冷静に彼女を手で制し、桜子の死体を検分して知り得た事実を彼女に伝えた。

「桜子さんの正体は、じつはアブサン・ヴァンパイアであったようだ。彼女こそが、わが学園を影から操る恐ろしい妖魔だったのだよ」

「そんな。会長がアブサン・ヴァンパイアだったなんて、あたしには信じられない」

「ごらん。桜子さんのうなじを」柏木逸郎が示す、いつもは黒髪に隠されている部位には、白い肌の上に、禍々しい悪魔ババルの紋章が紫色の痣となって鮮やかに浮き上がっていた。

「そんな!」麻衣は信じられな思いで、両目を見開く。「でも、なぜ不滅のアブサン・ヴァンパイアが、死んでいるの?」

「アブサン・ヴァンパイアは、他人にその正体を知られると、魔力を失い、その反動で死んでしまうと言われている。たぶん何者かが彼女の正体を知り、それによって桜子さんの命を奪ったのだろう」

「でも!」麻衣は狭い生徒会室の内部を見渡した。

「そうだ」柏木逸郎はうなずく。「ここは窓のない生徒会室。しかも唯一の入り口であるドアには、内側から鍵がかかっていた。つまり、完全なる密室内で、桜子さんは殺されたことになる。そして、犯人はまだ、この部屋にいる。犯人は、この中にいるのだ」

「え!」

「桜子さんの秘密を知って彼女の命を奪ったやつは、今もこの部屋にいて、ぼくたちのことをじっと見ている」

 逸郎はゆっくりと顔をあげ、のことをまっすぐに見た。


「犯人は、お前だ!」

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