第4話 鬼さんこちら

 ソレは夏も過ぎ、秋がようやく来たかと言うそんな時期でした。

 自室に居た私は、不意に『ある言葉』を口ずさみ始めたのです。


「鬼さんこちら、鬼さんこちら。手の鳴る方へ。鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


 手拍子を鳴らしながら、口からは同じ言葉が何度も何度も滑るように出て来ます。


「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


 一一心不乱に滑り出るその言葉を吐いて、何度目でしょう。

 ふと、我に返りました。

 今まで私は一体何をしていたのか。

 首を傾げながら、その日はそのまま眠りにつきました。




 その夜の出来事でした。

 ふと、目が覚めると片腕が部屋の隅に向かって伸びていたのです。

 なんだ? と思い無意識のうちに引き寄せます。


 ――ぷ、つん


 すると、腕からはそんな音が聞こえた気がしました。

 まるで蜘蛛の糸に引っ掛かり其れを取り払った時のような感覚に襲われます。

 視界は真っ暗で、今は深夜。月もない日の出来事です。

 私は気味が悪くなり、その日は部屋の電気をつけて眠りにつくことにしました。


 

 今でも考えます。

 あのまま、眠ったまま目覚めなければ。

 

 ――私は一体、ナニに捕らわれて居たのだろう、と。



 余談ですが、その月はちょうど地域の豊穣を願うお祭りが行わる、そんな月でした。

 ……もしかしたら、祭りの雰囲気に寄って来たナニかだったのか。

 今でもそれは、分からないままです。

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少し不思議なとあるおはなし 雪片月灯 @nisemonoai

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