ミカのバトルスーツの色

水木レナ

ミカのバトルスーツの色

 オレは仕事が終わって家に帰ってきた。

 妻のミカが出迎える。む、今日もニコニコしている。なにか面白いことがあったなら共有するべく教えてほしい。が、今はやるべきことがある。

 オレは左右に視線を走らせ――というのも、誰が聞き耳をたてているかわからない――ミカの唇に指を立てる。


「おまえはおかえりの挨拶をしてから、何かして欲しいかをオレに聞く」


 するとミカ、

「あなたは手早く食べられる物を用意してと答える」

 うむ……なかなかわかってきたな。


「おまえは分かったと台所に行く」


 オレはミカの顔を見た事で安心したけど、気が抜けた事で疲れが一気に出てきてしまう。ええい、油断は禁物だというのに。ミカがいるというだけで、ホッとするぜ!


「あなたはゆっくりと歩いて、台所の手前のリビングまで進む。そして服装を少し楽な感じにしつつ、テーブルにつく」

 ミカの声が廊下にぽつりと落ちた。


「台所でおまえが食べ物を支度する」

「あなたはその音を聞くと、気持ちが楽になる」

 なんでわかるのだ!? いや、当たっているが。おちつけ。


 ミカが台所からリビングに戻ってきた。お茶漬けを作ってきてくれていた。

「あなたは食べ易くて良いと喜ぶ」

「う、うむ」

 今日はシソがのっている。梅肉に色を付ける天然の色素が、いま口の中に酸味を呼ぶ。赤い、というか紅い。紫がかったその紅はまるでミカのつけているバトルスーツの色ではないか。

「オレは鼻をくんくんとさせながら、その香りをかぐ」

 ミカはまたあのニコニコ顔だ。なにか面白いことがあるなら教えてほしい。寂しいではないか。仮面夫婦か。


 少しの間お茶漬けの見た目を愉しんでから、オレは食べ始める。

 オレがお茶漬けを食べる。その様子をミカはオレの向かいに座って見ていた。

「ジョジョごっこも年季が入ると血肉になってきて面白いわねえ」

「……」


               END

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