いい作品だった。読んでよかった。

とにかくいい。
カクヨムで読んだ作品の中では間違いなくトップクラスだ。

この小説はまわりでとびきり評判がいい。
まわりというのは、如月芳美と交流のあるカクヨム作家たちのことである。

作者の如月芳美とはTwitter上でなんどとなくアホな話をしあっていて、彼の書籍化作品である「いち癇」ももちろん読んでいて、何度も「いち燗」と書いては「酒の小説は書いてねえ!」と怒られるくらいの仲である。俺が書いた小説に彼を強引に登場させて悶絶させたことまである。

そんな彼のファンである俺は「いち癇」以来の彼の他作品ももちろん読んでいて、如月の性癖や趣味を承知済みだ。その俺をして「おお、こういうものを書いてきたか!」と思ったのが、このGIFTであった。

中学生という難しい時期の、音楽という難しいジャンルの、アスペルガー症候群という難しいテーマ。なんという挑戦的な題材か。誰もが中学生だった時期、合唱コンクールに参加したことがあるはずだし、クラスに一人くらい、ちょっと変わったタイプの人を見たことがあるはずだ。高校生以上のほとんどがそれぞれに一家言あるはず。Web小説でこういったテーマに切り込める奴は、如月芳美以外に多くはないだろう。

当然、この手の作品に必須である、若さがもたらす差別的な発言、それに対する感情的すぎる反論と言った緊張感のある場面もある。さらには発達障害の結果得られた能力を発揮する場面も迫力があり、重層的な厚みもある。しかしこんな書き方をすると、結局、社会派気どりの意識高い系か、と勘違いするやつもいるだろうが、もちろんそうではない。如月芳美の描く世界は、そんなお仕着せがましい道徳の教科書ではない。あくまで等身大の、若い世代が持つ貴重な時間の描写で、それはナイーブでセンチメンタルな部分を押し出しつつ、しかし前向きな明るさを組み込んでいる。

賭けてもいいが、心理学や精神医学の辞書を引きながら書くタイプの社会派(笑)にこの作品は書けない。そんな純文学もどきは如月芳美の目指すところではない。彼が描くのは現代の亀裂の中の救い。今まで多くの人が目をそらしてきた感覚が、音楽をめぐる登場人物たちの行動によって浮き上がっていくことだ。しかもそれは、たとえば浅原ナオトや旭晴人といった技巧と表現に富む作家たちが描く若者たちの苦悩ともまた少し異なる、如月文学独自の筆致である。コメディ的なエンターテインメント性や、会話主体の明るい文体が魅力的なのだ。俺はそこが好きだし、感性に合致した。

発達障害に対する観点で同意できない人や、音楽の知識が求められるように感じる人もいるかもしれないが、とにかくそこは抜きにして、心を開いて最初から最後まで読んでみたまえ。なにがいいとか、なにがよくないとか、そんな重箱の隅をつつく必要はない。読めば、心が軽く、明るく、そして強くなるはずだ。小説ってそういうもんじゃないのか。

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