エピローグ

「あっ……」


六畳一間の壁際に押し込められたシングルベッドの上で、海未が小さく声を上げた。


海未の気持ちを最速で昂らせる手順はわかっている。

あとはおざなりだと感じさせないように、丁寧にそれをこなしていくだけだ。


温泉宿では目的えっちは果たせなかったし、礼知に振り回されたりもしたが、その後の二人はこうして仲睦まじくやっている。


俺が礼知に向かって「必ず海未を幸せにする」と宣言したことも海未を喜ばせたようで、それからというもの、海未の感度が今までよりも上がった気がする。


「ヨシくん……」

名を呼ばれ、次をねだられる。


俺の興奮も最高潮だ。

「海未……」

名を呼び返して、深く口づけ、


そして──


「よしくん……っ」


えっ!?


独特の声音に思わず反応し、海未の顔を見た。


この目つき。

この口もと。


「え……?礼知??」


「よしくん。海未の意識は飛びんした。今日はこのままわっちと……」


「意識飛んだってゆーか、お前が海未の隙をついて出てきたんだろーが」


「どちらにしたってよさんしょう。

わっちは海未でもござりんす。

たまにはわっちもよしくんに抱かれとうござりんす」


潤んだ瞳でねだられて、くらっときた次の瞬間、海未の……いや礼知の手足が触手のように俺の四肢を絡めとる。


「遊女の手練手管、ひとたび味わえばくせになりんすえ?」


イソギンチャクに捕食される小魚のイメージが再び俺の脳を支配する。


けれども、蠢く触手によってそのイメージは次第に快楽へと塗り替えられていく。



海未と礼知。

ひとりで、ふたり。

ふたりで、ひとり。



俺はふたりに恋をする──



(おわり)

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海とライチ 侘助ヒマリ @ohisamatohimawari

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