第2話
見事、英雄の力で魔物を撃退した
だがしかし……異世界で彼を待ち受ける苦難は魔物の脅威だけではなかった……!!
「スマホの充電がー!」
『苦難それかー!!』
魔物と戦闘しながらの高速イベント周回の代償は、著しい充電の減少であった。
崩れ落ちる貢。念話で突っ込む女神ソフィア。無論念話なので貢以外に女神の声は聞こえていない。
「た、頼む……!誰か充電器……いや、充電器は持ってる!コンセント!コンセントを!」
「え、ええっと……」
貢の豹変に、先程まで魔物に襲われていた少女・レイは困惑した。
今の貢の姿は、魔物を毅然と打払い誰でも
それ故に、充電やコンセントが何かしらないレイにもことの重大さが理解できた。貢には魔物から助けて貰った恩がある。次は――
「話は聞かせてもらったわ!」
突然口を挟んできたのは村一番の解説役である村長の奥さんだ。
「魔物を倒したあなたはコンセントとやらを探しているけど見つからないのね!そしてレイはコンセントがどこにあるかは知らないけど、この村を出て東に行ったところにあるエリル市になら手がかりがあるかもしれないと思っているのね!それで助けてもらったお礼に案内しようというわけ!そういうことなら私も一肌脱ぐわ!はい旅支度と餞別!あなたが居ない間のことは任せてちょうだい!」
話が早かった。
と、言うわけで。レイと貢はエリル市を目指し東へ向かっていた。
「充電は残り13%……くっ……走るだけは走った……イベ周回は諦めざるをえないか……」
貢は苦悩の目でスマホを睨みつけている。その姿に、レイは申し訳無さを感じた。
「ごめんなさい……わざわざ
「……いや、これは仕方なことだ。
(私のせいで困っているのに、なんて優しい人なんだろう……)
「ところで。そのエリル市ってのはあとどれくらいかかるんだ?」
「この調子だと日が沈む前にはつくでしょうね。道中で出て来る魔物も装備を溶かして人間をねぶりながら食べる凶悪なスライム以外は大したことないですし、楽な道のりです」
「ギシャー」
「そうか、ところでその装備を溶かすスライムってのはそこにいるやつか?」
貢に指さされ振り向くと、レイの背後には人間大の粘液の塊がうごめいていた。
「きゃー!服を溶かされて食べられるー!」
「ギシャー!」
「やらせるか!」
どこから発声しているのかわからないが奇声を上げながらレイに飛びかかるスライム。だが、貢が拳を振るうと一撃で打ちのめされた。
「大丈夫だったか?」
貢の拳は少しだけ赤くなり、煙が出ていた。スライムの装備を溶かす粘液の影響だろう。
「あ、あの……私は大丈夫ですが……貢は……」
「ああ……これぐらい大したことないさ……
(私が
レイは赤くなり顔を反らした。貢は心当たりがなくてポリポリと頭を掻いた。
倒されたスライムの死体はしばらくその場に残っていたが、すぐに消え去り後には一枚のカードが残された。
「これは?」
貢は残されたカードを手に取った。よくあるキャッシュカードやら会員証やらと同じぐらいの大きさで、表面には青紫色の地に何かのマークが書かれていて裏面には白地に銀色のラインが一本ひかれている。
「魔物に含まれる魔力がカードになったものです。それ自体に価値があるものですし、討伐証明にもなるので冒険者ギルドに持っていくと換金できますよ」
「へえ、なるほどな」
「今回の目的地はエリル市の冒険者ギルドなので、コンセントについて聞くついでに換金しましょう」
貢はポケットにカードを仕舞うと、エリル市への道を急いだ。
エリル市。冒険者ギルド。
コンセントについての情報収集のため、まずは軍資金にしようとカードの換金手続きをしようとした貢とレイ。
冒険者ギルドの受付カウンターにカードを置くと、近くで酒を飲んでいたあらくれそうな男が声を上げた。
「おいおいおい!テメエら見ねえ顔だがCランクのカードなんてどこで手に入れたんだ?田舎から出てきた若造が持ってていいようなカードじゃねえぞ。大方拾ったか盗んだかしたんだろう。それはお前らにはもったいねえ。悪いことは言わねえから俺に渡しな。有効活用してやるからよ。へへへ、これも勉強代って奴さ。さもないと痛い目にぐあああ!馬鹿なエリル市の冒険者ギルドでは最強と呼ばれる俺の体術が通用しねえとはテメエ何者だ!?」
話が早かった。
ともあれ、絡んできた自称エリル市最強を貢が組み伏せたことで、ギルドの中は殺気立っていた。
今にも飛びかかろうとする者、様子を伺う者、我関せずと言った態度を取る者……
誰かが動けば均衡は崩れ大乱闘となるだろう。
一触即発の空気の中、ギイ、と軋みながらギルドの一番奥の扉が開いた。
「やれやれ、何をやっているんだか」
出てきたのは三十代半ばほどの女性だ。実用本位の装備と鋭い眼光が、只者ではない気配を発していた。
その姿を見た自称エリル市最強がすっとんきょうな声を上げた。
「ぎ、ギルドマスター!?い、いやこれは……」
「やれやれ、大方実力差も理解せず新人に絡みでもしたのだろう。全く、実力はあるくせに見る目と落ち着きがないのがお前の悪いところだ。しばらく謹慎処分にするから、頭を冷やすといい。皆もそれで異論はないな?」
ギルドマスターがギロリ、と室内を見回すと、一気に殺気がしぼんでいった。
「ふう、すまないね。こういう仕事をしている連中だからどうにも血の気が多くて……」
「別にいいさ。それよりそのカードの換金と、あと知っているならコンセントがどこにあるのかを教えてほしいんだが」
コンセント、という言葉を聞いてギルドマスターがピクリと眉をひそめた。
「コンセント……か。それを聞いてどうする」
横から二人のやり取りを見ていたレイは、その言葉とギルドマスターの眼光にすくみあがった。
横で見ていてこれなのに正面から受け止めたらどうなってしまうだろうか。しかし、貢は揺るがなかった。
「スマホの充電をしたいんだけど」
「……なるほどな。あんた……『契約者』だな?」
ギルドマスターの言葉に、冒険者達が騒然とした。
「け、契約者だって!?」
「神や精霊と契約して力を受け継いだっていう、あの!?」
「それならあの力も納得できるぜ!!」
皆の慌てっぷりに貢は首をかしげた。
「別にそんな大層なものと契約した覚えないんだけど」
『私ー!私ー!』
「だって女神、別に役に立ってないじゃん。
『そうだけど腹立つー!』
貢のつぶやきを聞き、ギルドマスターは小さく笑った。
「……こっちにこい」
ギルドマスターはギルドの奥の扉へと歩いていく。貢とレイはその後ろをついていった。
扉の奥は執務室であるようだ。
ギルドマスターが執務机の後ろの壁を触ると、そこから新しい道が現れた。
長い道を歩きながら、ギルドマスターは半ば独り言のように語った。
「冒険者ギルドとは仮の姿……ここの本当の役割は別にある。まさか私の代で使うときが来るとは思わなかったがな」
「別の役割って」
「……ここは、『英雄』の『契約』をサポートするために作られた場所。その名を――
「……!!
『え、契約ってそっち!?
貢は女神の言葉を無視し、コンセントを借りてスマホの充電をした。
「ここ以外の街の冒険者ギルドも全て
「えー、充電できるなら俺このままここでソシャゲーをしてたいんだけど」
貢が不満そうに言うと、ギルドマスターはふっと笑った。
「それが出来ないことは、君が一番良く知ってるんじゃないかな」
「……」
「そして……私はその問題の解決方法を知っている」
「何……?」
ギルドマスターはポケットからカードを取り出した。それは、先程貢が換金してもらったカードだ。
「君は、これに見覚えがあるはずだ」
「……まさか!」
「サービスだ。使ってみるといい」
ギルドマスターは頷き、貢にカードを渡した。
貢がカードを裏返す。そこにあるのは銀の色のラインが一本。ラインは、爪でこすると簡単に剥がすことが出来た。
その下から現れたのは……
「プリペイド……番号……!!」
「そうだ。君がこの世界で課金を続けるには、魔物を倒し続けるしかない!」
「だが、それならこの辺で魔物を狩り続けても同じことじゃ……」
そう言っていた貢だが、プリペイド番号を入力して言葉に詰まった。
スマホの画面に数字されたプリペイド金額。それは
「石一個分にも満たない……!?」
「そうだ!金額は倒した魔物の強さに比例する。このあたりの魔物ならその程度だが……ふふ、魔王を倒せば。あるいは天井まで回せるかもしれないぞ?」
貢はスマホの画面をスリープし、振り返った。
彼の顔は、熱い決意の篭った視線でレイに……そして女神ソフィアに宣言した。
「やるべきことが、やっとわかった……俺、魔王を倒すよ」
「貢……!!」
『素直に喜べねー』
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