第7話
――魔王城 英雄危機特別緊急対策本部ソシャゲー研究室
普段は魔族たちの親しみ深い高笑いに満ちた謁見の間には、もはや、ただ二つの影しかなかった。
謁見の間はあちこちが破壊されていた。
そして、荘厳な玉座にはその主が座し……否、縫い付けられていた。
魔王は、自らの胴を貫通する英雄の拳を見た。そして血を吐きながら笑った。
「くくく……見事……よもや、我を殺すこと能うとはな……」
死の淵に瀕しながら、なおも笑う魔王。
対照的に、英雄……貢の表情は晴れない。
「……あんたは強かったよ。俺が、
魔王は確かに強かった。イベ周回の片手まで倒すことはできず、仕方なくスタミナを使い切ったところで戦いに集中してやっと倒せたほどだ。
だが……貢の見立てでは、魔王は最後の攻撃をよけられてもおかしくなかった。だが、今魔王は貢に胸を貫かれ死にかけている。それはなぜなのか?
貢の問いに、魔王は高笑いで答えた。
「くくくく……くははははははは!!」
「何がおかしい!」
「わからんか、
魔王はマントに手を入れ、何かを取り出した。それは光を放つ手のひらサイズの板――スマホだ。
「まさか……まさか……!!」
「よもや気づいていなかったとは……滑稽だなぁ!『みーくん@アリスたん担』!!」
「お前は……お前が!『アッちゃん』だったのか!?」
魔王のスマホに表示されているのは『大惨事!アイドル世界大戦』のイベントランキング画面だ。
そこには
1位 アッちゃん
2位 みーくん@アリスたん担
と表示されていた。
「そうとも!!感謝するぞ、『みーくん@アリスたん担』!お前が我を殺すことに集中してくれたおかげで……我は頂点に立つことができた!アリスがランキング報酬のイベントで、その頂点に!!」
貢がスタミナを使い切った時点で、アッちゃんとみーくん@アリスたん担の間には覆しがたいポイント差があった。
それを覆せたのは魔族の身体能力のなせる業か……あるいは……
「なぜだ……なぜだ魔王!魔族は人間とは理解不能の天敵と聞いた!それがなぜ、アリスたんの担当マネージャーを!?」
「くくく……なぜ、か……」
魔王は、ふっと穏やかな目をした。
「……初めは、貴様の弱点を探るために利用しただけであった……だが……」
魔王の脳裏に浮かぶのは、アリスと過ごした日々の記憶……
『選ぶのはアンタじゃないわ。私よ。未来のトップアイドルをマネージメントさせてあげるっていってるの』
「ほほう、この魔王アッちゃんを前に気丈な言葉を吐いたものよ。面白い、我とともに覇道を歩むのは貴様よ!」
「くくく……同族すらも贄にするとはやはり人間は邪悪……どれ!有象無象のアイドル共!我がアイドルの糧となり永遠を生きるが良い!」
『また一歩、トップアイドルへ近づいたわ』
「ぐあああ!」
『ふええ、勝っちゃいました……!』
『YOU LOSE!』
『くっ……私の力が、足りないの……?』
『ふん、いつも辛気臭い顔してるわね。笑いなさい、マネージャー。私の大舞台よ。心配しなくても、最高のステージを見せてあげる』
「SSR……アリス……!」
『ふええ……負けちゃいました……』
『YOU WIN』
「ははは!勝った!勝ったぞ!アリス!」
『これぐらい、当然よ』
「だが……アリスとすごして我は知った。歩み続けることの尊さ。気高さ。そして……」
『私がアイドルで、あなたがマネージャーなんだから』
「信頼の、価値を……」
胸にぽっかりとあいた穴からは血が流れ続けている。だが、魔王の胸中は暖かかった。
「魔王……いや、アッちゃん……あんた、アリスのことをそこまで……」
「く、くくくく……貴様にも、感謝せねばならぬな……貴様がいなければ、我は知ることがなかった……人間の……尊さを……」
魔王の体が、ぐらりと揺らいだ。
貢は魔王に駆け寄り、倒れかけた魔王を支えた。
「だったら……だったら、そう言ってくれれば!!」
「何も……変わるまい……所詮我らは
貢は何かを言おうとした。だが、今は何を言っても嘘になってしまう気がして、何もいえなかった。
今、貢は魔王と理解しあえる可能性を感じている。だが、それと同じくらい、1位になった魔王がねたましくてしかたないのだ。
これはもはや同担である以上、避けられない衝突であったのだろう。
「……勝利は、くれてやる……だが今は……今だけは……アリスの一番は、我よ……」
「勝ち逃げかよ、魔王……」
ゴボ、と魔王の口から血が溢れた。最期の時は近い。
「なあ、英雄よ……アリスのマネージャーとして、最期の頼みを聞いてくれぬか……?」
「……なんだ?」
「……次の、ガチャで、SSR限定アリスが実装されることは知っているな……いや、知らぬわけはあるまい。だからこそ貴様は……イベントを走るよりも我を殺すこと選んだ……」
貢はうなずいた。
正直、報酬的には1位と2位の差は自己満足でしかないのだ。
だったら、確実に魔王を倒してガチャ資金にしたい、と、そんな打算が貢にはあった。
「我が
魔王の体から力が抜けていった。
やがて魔王は動かなくなり、体は光の粒となって消えていった。最期には、貢の手の中にカードが残された――
「わかったよ。魔王……お前の魂、受け取った」
貢は立ち上がった。拭うべき涙などない。やるべきことは、すでにわかっていた。
『……なんだこれ』
そして女神にはもはや何がなんだかよくわからなかった。
ともあれ、魔王の脅威はさり、世界には平和が訪れた。
その後の貢の行方は、誰も知らない……
『え、ちょ、え!?まって!まって!電波とか
だが、我々は知っている。
この世界を救った
『まあ確かにね!スマホが世界救ったみたいになっちゃったけどさ!けどさ!おい!ちょっと!』
異世界英雄伝話 完
『終わるなやー!?』
異世界英雄伝話~英雄なら異世界でもソシャゲができる!~ ロリバス @lolybirth
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