T*K

プロローグ


 人はすぐに忘却の海へと誘われる。

 自身に不必要だと感じた瞬間に、まるで何も無かった様に……簡単に繋いでいた手を離す。離された片方は、底のない暗黒な海へと吸い込まれて、身も心も壊れていくというのに。


「すべての出会いには意味があるんだよ」

 博文は美智に、耳元でそっと言った。

「美智が嫌になったら、いつでもサヨナラしていいから」

「ヒロの事。嫌になんてなる訳無いよ」

「俺は去るものは追わないからね」

 花冷えの少し肌寒い季節に、二人は抱き合う、美智には掛け替えのない温もりだった。

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