第2章 ヒカリ

朝だ。



眩しさに布団を頭まで被ると、甘い桃の香りが一気布団の中へ入り込み、鼻腔をくすぐる。



通気性のいい高級そうな布団、寝心地のいいベッド。



幸せ。



「起きたんですか?」



人の声に驚いて勢いよく起き上がった。



一面のピンク。



まるで自分がお人形になってしまったのかと錯覚するような、ふりふりキラキラのかわいいお部屋。



そしてその中央には、ゆるやかなウェーブのかかった綺麗なクリーム色の髪、ブルージルコンのような透き通った水色の瞳をもった、可愛らしいフランス人形のような少女が仁王立ちしていた。



「具合はどうですか?」



ピンと伸びた背筋、言いながらこちらへ歩いてくるその身のこなしさえも見とれてしまう。



「えっと……」



「あなたが昨日事務所の前で倒れていたところを、メイが発見して連れて帰ったんです。

名前はヒカリさんで合っていますか?」



かわいい声。メイちゃんというのか。



…ヒカリ?



「……………………………」



「どうしたんですか?違いましたか?あなたの名前」



メイちゃんは少し困ったように眉を下げた。



わたしの名前…。



「わからない……」



思い出せなかった。何も。



「わからないって…まさか、記憶喪失ですか?」



「ごめんなさい…」



迷惑をかけている。



落ち込んだわたしを見て、メイちゃんは少し慌てた。



「あ、謝らなくていいです。でも、あなたのそばに落ちていたポーチに書いてあったので、あなたの名前だと思います」



ポーチ…?



一体何が入っているんだろう。



「具合がよくなったのならすぐに警察と病院に行きましょう」



「まって!」



わたしの急な大きな声に、メイちゃんは少しびくりとした。



「…かさ」



「傘?」



「男の子に傘を借りたの」



忘れられない。走っていく後ろ姿。



「ああ、確かにありましたね。黒い傘。

一応いっしょに持ち帰りました」



ほっとため息が出た。



「その傘を男の子に返したいの」



また会いたい。



「だから、警察と病院は少し待ってほしいの…」



そのまま保護とかされたら自由な時間があまり無いかもしれないし、それに…。



メイちゃんとの別れも少し惜しかった。

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ヒカリの記憶 フルミ製作委員会 @fruitmix

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