《病院の名残り》

 駅まで徒歩10分。バス停は目の前。公園もすぐそばにあり、県道も近いため自家用車も非常に便利な場所に建てられた新築のマンション。そんな場所に夫と5歳になる娘と引っ越してきたのはほんの一週間前のこと。

 とっても便利なんだけれど、近辺のマンションよりもこのマンションは値段が安くてその理由を知るのに時間はかかりませんでした。


 ある日のこと、娘を公園に連れていこうと一階のロビーに降りるとお婆さんが一人座っていました。オートロック式のマンションですが気になったので話掛けることにしたんです。

「どなたかお待ちですか?」

 お婆さんの返答はこうだった。

「診察の順番を待っています」


 このマンションの土地には元々病院があったそうで、もちろん建物は全て潰して構造も違うように建てられたそうですが、古くから住んでいる人達には馴染み深い病院だったそうです。

 あの日、管理人さんに連絡して帰って貰ったお婆さんもその後も度々オートロックを潜り抜けてロビーに座っていることがありました。けれど、よりおかしなことも起きる様になってきたのは引っ越して一ヶ月ほど経った頃からでした。

 まるで誰かがいるようにテレビやエアコンが勝手についていることは多々ありましたが、ある日娘が泣きながら部屋から出てきて「ベッドにしらないおじいちゃんが寝てる!」と訴えてきたのです。

 すぐに確認しましたがもちろん誰もいませんでした。同じマンションの住人の方で似たような体験をしているという話もありましたが、わたしが一番恐ろしかったのはインターホンがなったので出ると焦った男の声で「看護婦さん!急に苦しくなって!早く、早く来てくれ!!」と言われたことでした。けれどそれだけでは終わらず、その晩の事……


 人の気配で目を覚ますと土気色の肌の男が立っていて言ったんです。昼間と同じ声で。

「あんたが来てくれなかったから、死んじゃったじゃないか」


 安かったとはいえそれなりの値段で買った家なのでお寺にでも行こうかと今、夫と話し合っています。

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【真夏の小説】 時計 紅兎 @megane-dansi-love

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