第4話
取り敢えず助かったみたいだな。
これからどうするかだが……
「シエラ、これからどうするんだ?」
「そうですね……先ずは宿を取らないと。後は仕事を探さなければいけませんね。」
やはり仕事をしなくては駄目なのか……
「それじゃあ宿を探そう。
でも俺は金を持ってないぞ?」
「少しですが私が持っています」
「そうか、なら安心だな。
無一文ならどうしようかと思ったよ」
シエラが適当な宿を見つけて部屋を取ってくれた。
言葉は理解できるが読み書きが出来るようになった訳じゃない。
宿の看板も分からなければ書いている内容も分からない。
そのため全てシエラに丸投げである。
部屋に入ると二つのベッドが左右に置かれていた。
左右のベッドにそれぞれ座り互いに向かい合う。
先ずはこの世界のことを知る必要がある。
それとシエラのことも……
「シエラ、お前が俺の監視役なのか?
お前は確か聖女様って呼ばれてただろ?
お偉いさんじゃないのか?」
「その事ですか……、聖女は首になりました。
聖女は男性とキスや性的行為をすると、その資格を失うんです」
「えっ……じゃ俺のせいで……」
「気にしないでください。
元々、聖女なんて
「そうか、そう言ってもらうと気持ちが楽になるよ」
「実は私の中には
「
「この世界では余りよく思われていない種族です。
私の父はハーフヴァンパイアでした。
そのため母との結婚を、お爺様は猛反対したそうです。
結局、父と母は駆け落ちをして私が生まれました」
「ご両親は?」
「父は教会関係者に殺され、病弱だった母は私を生んで直ぐに亡くなりました。
お爺様は私の素性を隠して、私を養子に迎え入れたそうです。
私が物心ついた頃、お爺様は私に包み隠さず、全てを話してくれました。
そんな私が聖女なんて笑っちゃいますよね。
元々、向いてなかったんです。
私は聖女を首になって良かったと思っています。
だからユウヤさんには本当に感謝してるんですよ。
私を助けてくれたんですから」
シエラはにこやかな笑みを見せた。
この様子だと聖女を首になったことは本当に気にしてないらしい。
「他にも何か聞きたいことはありますか?」
「この世界のことを教えてくれ」
「はい。この国はルメリア聖王国と言います。
セレネ様を神として崇める国です。
尤も、神様が本当にいるとは思えませんけどね」
「聖女だったんだろ?
神を信じないのか?」
「聖女だったからです。
ご信託なんて一度もありませんでしたから。
いつも適当な事を言ってたんですよ。
これを聞いても、まだ神様を信じられますか?」
「まぁ普通は信じられないよな……」
「後、この世界には魔法と言うものがあります。
異世界にはないと聞いていますが本当ですか?」
「ああ、俺のいた世界に魔法はないな」
マジか魔法があるのか、この世界も満更じゃないな。
「では、魔法の説明もしますね。
この世界には等級魔法と呼ばれる、初級から最上級までの魔法が存在します。
等級が上がるごとに取得が困難となり、一般的には上級を使えるようになると宮廷魔術師になることもできます。
後は複数の魔術師で唱える戦術級魔法がありますが、これは基本的に等級魔法を強化したものです。
その他にはエルフの使う精霊魔法もあります。こんな所ですね」
俺は一人頷き、もう一つのことを考えていた。
魔法があるんだから、やっぱり定番のあれも……
「なぁ、もしかしてこの世界には冒険者っているのか?」
「よく知っていますね。冒険者とは依頼を受けて、その成果で報酬を貰う人たちのことです」
思った通りいるんだな。
楽しそうじゃないか。
昔やったゲームみたいだ。
「それなら仕事は冒険者にしないか?
興味があるんだ」
「えっ!
ですが冒険者は命懸けの職業です!
毎年少なくない人間が魔物に殺されています。
危険な職業なんですよ!」
シエラは不安そうに顔を顰めた。
危険だからやめた方がいいと言いたいのだろう。
俺も命懸けと聞かされて少し考え込んだ。
そう言われるとちょっとな……
俺も流石に死ぬのは嫌だ。
出来れば安全な遠くから魔法を撃ちまくって楽して稼ぎたい。
その前に俺が魔法を使えるかだな……
「シエラ、俺は試しに冒険者になってみようと思う。
もし本当に危なかったら直ぐに辞めればいい。
これなら問題ないだろ?」
「そうですが…………
では、取り敢えず冒険者ギルドに行って登録だけでも済ませましょうか」
宿を出るとシエラの案内で冒険者ギルドにやってきた。
中に入ると俺のイメージした通り、よくゲームで見かけるような光景だった。
大きな掲示板には依頼が幾つも張り出され、奥のカウンターには受付嬢が並んでいた。
カウンターの前に来ると、受付嬢が丁寧に頭を下げて笑顔を見せる。
「いらっしゃいませ。今日はどの様なご要件でしょうか?」
明るい声で話し掛ける受付嬢を前に、俺ははどうするか思い悩んだ。
シエラに受け答えを任せた方がいいだろうな。
俺はまだこの世界のことを理解した訳じゃない。
知らないことを聞かれても困るし対応もできない。
「シエラ、任せていいか?」
シエラは頷くと一歩前に出た。
「私たち冒険者になりたいんですけど」
「登録にはお一人様銀貨2枚頂きますがよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
シエラは袋から銀貨を4枚出すと受付嬢に手渡した。
「それでは、こちらの用紙にご記入をお願いします」
差し出された用紙を見ると。
全く読めん……
なんだこの文字は?
隣を見ればシエラがすらすら記入していた。
「シエラ、俺は読み書きができない。
代わりに書いてくれないか?」
「はい、勿論です。
フルネームは確かスメラギ・ユウヤですから、こちらの世界ではユウヤ・スメラギですね」
「ああ、頼む」
「ではこれでいいですね。
はい、これお願いします」
カウンターに用紙を置くと、受付嬢が記入漏れがないかチェックを始める。
記入漏れがないことを確認すると、カウンターの上に金属のプレートと針が置かれた。
「はい、結構です。
ではこのプレートに血を一滴垂らしてください」
俺は言われるまま針で親指を指してプレートに血を垂らす。
するとプレートは一瞬光り輝くと血を吸収してしまった。
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