第6話
もう昼過ぎか、そういえば腹が減ったな。
「シエラ、宿で昼飯は出るのか?」
「出ませんよ。
朝食と夕食だけです」
「もし金に余裕が有るなら、どこかで軽く食事がしたいんだが……」
「では屋台で何か買いますか?
それにユウヤさんの装備も買わないといけませんし」
「俺の装備?」
「丸腰で依頼を受けるつもりですか?
死にますよ」
「マジか、そんなシビアな世界なのか……」
「繁華街には屋台も武器屋もあります。
さぁ、行きますよ」
シエラに引っ張られ繁華街にくると、そこは人で溢れ返っていた。
通りは多くの人が行き交い、店の軒先では商品を手に取り悩んでいる人たちが大勢いる。
「凄い賑わいだな」
「王都ですからこれくらい当たり前ですよ」
いい匂いがするな……
匂いの元に視線を向けると屋台からモクモクと煙が上がっている。
魅惑的な香りに思わずフラフラと吸い寄せられた。
屋台では串に刺された肉が焼かれ、肉から垂れた脂が蒸発して、なんとも言えない美味しそうな匂いを漂わせていた。
俺が屋台でじっと肉を見ているとシエラが後ろから覗き込む。
「ユウヤさん。
もう、急にどうしたんですか?」
「いや、余りに美味しそうだから。
昼飯はこれにしないか?」
「仕方ないですね。
おじさん串肉3本ください」
「あいよ、嬢ちゃん彼氏とデートかい?
いや旦那さんかな?」
「えっ!そう見えます?」
「とってもお似合いだよ」
既婚者と思われたのが恥ずかしいのだろう。
シエラは恥ずかしそうに身悶えする。
「そ、そうですかぁ。
おじさんやっぱり串肉5本ください」
「毎度有り銅貨1枚だよ」
シエラは嬉しそうに銅貨をおっちゃんに渡している。
俺は串肉を受け取ると勢いよく頬張った。
溶けた脂の旨味が口にいっぱいに広がっていく。
噛むごとに肉汁が溢れ出た。
「美味い!
なんだこれ?
こんな美味い肉は初めてだ。
塩加減も絶妙で最高じゃないか!」
それを聞いた屋台のおっちゃんは、ニカッと笑い自慢げに胸を張った。
「だろ?
俺のところの肉は格別にいいのを仕入れてるからな」
「おっちゃん顔は悪いけど、いい腕してるな」
「顔は余計だ!
商売のじゃだから早くどっかいけ」
「分かったよ。
気が向いたらまた買いに来てやるからな」
俺はそう言って屋台から離れると、シエラを引き連れながら串肉を食べ歩きした。
シエラも満足そうに串肉を頬張っている。
「ほんと、これすごく美味しい。
買ってよかったです」
「これは当たりだったな。
見た目よりも量も多いし十分腹一杯になる」
そう言いながら、俺はもう3本目の串肉を頬張っていた。
「確かに見た目より量が多いですね。
私はもう食べられません」
シエラは食べかけの串肉を手に持って苦笑いを浮かべている。
「なら残しておいてくれ。
俺はまだ余裕で入るから俺が食うよ」
「え?でも、私が口をつけた串肉ですよ?」
「何か問題あるのか?」
「そうじゃないですけど……」
俺は3本目を食べ終わると、シエラの持つ串肉に直接齧り付いた。
「ひぇ!」
シエラは短い悲鳴を上げると凍りついたように立ち止まる。
「どうした?
もしかしてやっぱり食べたかったのか?
まだ少しだけなら残ってるぞ?」
シエラの持つ串肉には僅かだが肉が残っている。
「そ、そうですね。
残りは私がいただきます」
俺は恥ずかしそうにちょびちょびと串肉を齧るシエラを見て確信する。
屋台のおっちゃんに彼氏とか言われて嬉しそうにしてたし、どう見てもシエラは俺に気があるよな……
暫く歩くと武器屋の前にやってきた。
軒先には武器が並び、店の奥には厳ついオヤジが座っている。
店の中にも所狭しと武器が置かれていた。
「ユウヤさん、武器はやはり剣がよろしいですか?」
剣か、でも剣だと魔物に近づかないとダメなんだよな……
俺はそんな危険なことはしたくない。
出来れば後ろからコソコソ攻撃したいんだが、でもそうすると前衛がいなくなる。
どうしよう……取り敢えず無難に剣にしておくか……
「そうだな剣にするか、だが安いのでいいぞ。
高いのを買っても使いこなせなければ意味がない。
所持金だって限られているんだ」
「そうですね。
剣が合うかも分かりませんし、試しに安い剣を買って試してみましょう。
剣は私が選んでもよろしいですか?」
「任せるよ。
俺に剣の良し悪しは分からないからな」
シエラは頷くと集中するように並べられた剣を眺めている。
特価品の剣が並べられている中から1本の剣を選ぶと俺に手渡した。
「これはどうでしょうか?」
受け取るとズシッと程よい重量が伝わってきた。
振ってみると剣に振り回されている感じだが振れないことはない。
折角選んでくれたんだ。
これでいいだろう。
「これにしよう」
店の奥に持っていくと厳ついオヤジが睨みを利かせてくる。
何故かシエラをじっと訝しげに見ていた。
「お嬢ちゃん。
あんた目利きが出来るのか?」
目利き?
もしかしていい剣なのか?
「いえ、適当に選んだだけですがどうかしましたか?」
シエラが表情を変えることなく平然と告げると、オヤジは肩を落として何でもないと話を切り上げた。
「その剣は銀貨5枚だ。
鞘はサービスしてやる」
「ありがとうございます」
シエラは代金を渡すと嬉しそうに俺の腰に剣の鞘を取り付けた。
剣があるだけでも随分違って見えるものだ
だが残念なことにジーパンに剣ではちょっと格好がつかない。
「なぁシエラ、今度は服屋に行かないか?
この格好はどうにも目立つ」
「分かりました。
マントなども買わなければいけませんし服屋に行きましょう」
次の買い物が決まると、俺たちは服屋を目指すことにした。
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