第3話 

 知識を国のために使えだと?

 俺にそんな大層な知識がある訳無いだろ。

 もし、馬鹿だったら殺されるのかな……



「一つ聞きたい。

 もし、俺が何の知識も持っていなければどうなる?」


「普通に暮らしていただいて構いません。ですが監視は付きます。

 当然この国からは出られません。貴方が嘘を言っているかも知れませんからね。

 そして、この場合は国からの資金援助はありません。

 生きていくためのお金は自分で稼いでもらいます」



 なるほど、国のために異世界の知識を教えれば働かずに遊んで暮らせるわけか……

 でも、俺アホだからな……

 知識なんかないし、下手に嘘を言っら殺されかねない。

 抑、こいつらはどんな知識が欲しいんだ?



「お前らはどんな知識を望んでいるんだ?」


「主に交通機関と作物の品種改良です。

 正確には車と呼ばれる乗り物の動力源の構造です。

 作物に関しては遺伝子操作と呼ばれるものを知りたいのです」



 そんなもん知るか!

 専門職の人しか知らねぇよ!



「悪いがそれは知らん」


「やはり、そうですか……

 過去に接触した異世界人も車という乗り物は知っていても、いざ作るとなると何も分からなかったと。

 遺伝子操作とはどのようなことか知っていても、やり方が分からなかったり、本当に使えませんね」



 何か酷い言われようだ……



「折角50年振りに見つけた異世界人なのに……」


「もう要件は済んだろ?早く開放してくれ」


「分かっています。その前にこれを身に付けてください」



 手渡されたのは青い石のピアスと、中央に青い宝石を嵌められたチョウーカー。



「そのピアスとチョーカーは魔道具マジックアイテムになっています。

 それを身に着けることで、この世界の言葉を理解できますし、話すこともできます」


「それは便利だな、早速着けてみるよ」



 元から嵌めていたピアスを外して、貰ったピアスを身に着けた。

 チョーカーも首に巻き着ける。

 魔道具マジックアイテムと言っていたが違和感は特に感じられなかった。



「これで、この世界の言葉を話しているのか?」


「ええ、そうです。直ぐに牢屋から出します」



「少し離れていろ」



 男が言葉を放つと俺はその言葉を理解できていた。



 これならこの世界でも生きていける。

 だが仕事をどうするかだな……



 鍵が開けられると俺は通路に出て大きく背を伸ばした。

 鉄格子を挟むだけなのに開放感がまるで違う。



「ありがとう、ほんと助かったよ」



 お礼の意味を込めて少女の頬に軽くキスをした。

 いつもやっている俺のスキンシップだ。

 俺は顔がいいせいか、こんなものでも一割の女性は靡いてくれる。

 尤も、大半の女性には唖然とされるか、酷い時には殴られるが……

 だが、こういった普段の積み重ねが功を成してヒモになれるのだ。



「なっ!貴様、聖女様になんてことを!」



 俺は男たちに両腕を抱えられ、あれよあれよと牢屋の中に戻された。




 えっ!?




「貴様はそこで大人しくしていろ!」



 男はそう言い放つと、放心状態の少女を抱えて立ち去っていった。



「いや、ちょっと待て!

 お礼のキスをしただけだろ?

 おい、戻って来いよ!」



 だが、誰も戻ってくることはなかった。

 独り寂しくベッドに腰掛けると溜息を漏らす。



 何でこうなった?











 翌朝、牢屋の前には昨日の神官服の男たちが並んでいた。



「出ろ!貴様を神官長の下まで連行する!」



 神官長だと?

 今度は何なんだ……



 連れてこられたのは聖堂のような厳かな場所。

 奥には一際長い神官帽を被った老人が佇んでいた。

 その横には数人の神官と牢屋で見た少女が控えている。

 俺は老人の前に連れ出されると鋭い瞳でキッと睨まれた。



「この者か?」


「はい、昨日捕まえた異世界人です」



 老人は長く伸びた顎鬚を摩りながら訝しげに俺を観察する。

 そして……



「本当によいのかシエラ?」


「はい、お爺様。もう決めました」


「そうか……」


 

 どういう事だ?

 俺がまた何かしたのか?

 何で初対面の爺さんに睨まれてるんだ……



「お前の名は?」


「勇也、皇勇也だ」


「ユウヤか、お前を解放する。但し、この国からは出られんぞ。

 監視として我が孫、シエラを付ける。

 いいか、もし、もしだ……

 孫娘に何かあって見ろ!八つ裂きにして魔物の餌にしてやる!覚悟しておけ!」



 その鬼気迫る表情に俺は思わずたじろいでしまう。



「返事はどうした!」


「わ、分かった」



 横目で見るとシエラは嬉しそうに微笑んでいた。

 他の神官たちは悔しそうに俯いている。

 中には涙を流し号泣する者までいた。



「ではシエラ、気をつけてな。もし此奴が何かしたら直ぐに知らせるんじゃぞ」


「大丈夫です、お爺様。ではユウヤさん、行きましょうか」



 シエラは嬉しそうに俺の手を取り、この場を後にした。

 俺はされるがまま後を付いていくしかなかった。

 土地勘もなく所持金もない。

 今の俺に頼れるのはシエラだけである。



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