第9話 

 森に着く頃には俺は立ち上がれないくらい疲労していた。

 2時間歩いただけだが、普段から体を動かしていない俺にとっては重労働である。


 対してシエラはケロッとしている。

 全く疲れを見せていない。

 途中からは俺の手を引いて歩いていたほどだ。



「旦那様しっかりしてください。大変なのはこれからですよ」



 なんでシエラはこんなに元気なんだ?

 これがステータスの差なのか……



「シエラ、少し待ってくれ。休んでから森に入ろう」


「仕方ないですね。でも時間は余り取れませんよ」



 今日のシエラはどういうわけか体が軽い。

 普段であればもっと疲れているはずだが、今日はいくらでも歩ける気がした。


 原因は分からないが、きっとユウヤと一緒で楽しいからだとシエラは一人で納得する。




「では、そろそろ行きましょうか?」


「もう行くのか?」


「本当に陽が暮れますよ」


「仕方ないな……」



 シエラから夜の危険性を嫌というほど教えられている。

 俺は渋々重い体を起こすと、シエラが早くと俺の手を引っ張った。


 普段から冒険者が頻繁に来るのだろう。

 森の中は歩きやすいように踏み固められ、幾つもの道が出来ていた。


 俺は剣を構えながら慎重に森の中を進んでいく。

 シエラはその直ぐ後ろを警戒しながら歩いていた。



「直ぐにゴブリンが見つかるわけじゃないんだな」


「ここは冒険者が頻繁に来ますから。ゴブリンも警戒して近づかないのかもしれませんね」


「道から逸れたら駄目なのか?」


「腕の立つ冒険者ならまだしも、私たちは初心者ですよ?

 道から逸れると危険な魔物と遭遇しやすいんです」


「なら、地道に探すか……」



 暫く道なりに進むと草木が擦り切れる音が聞こえた。

 慎重に覗き込むと、緑色の肌をした小柄な魔物が木の実を拾い集めている。


 俺が小声でゴブリンかを尋ねると、シエラは無言で頷き返した。

 俺たちは目配せをするとゴブリンの真後ろに静かに回り込む。


 怪我をした時のためにシエラは杖を構え回復魔法の準備をしている。

 シエラに目で合図を送り、俺はゴブリンの背後から一気に剣を振り下ろした。

 剣はゴブリンの肩口から背中を切り裂き腰に抜ける。



「ギャ!」


 

 ゴブリンは振り返ることもできず、血を噴き出しながら短い悲鳴を上げていた。

 ドカ!っとその場に崩れ落ちると、そのまま動かなくなった。

 どうやら絶命したらしい。

 後ろを振り返ればシエラが嬉しそうに笑みを浮かべている。


「やりましたね」


「ああ、思ったより簡単だったな」


「この調子で次のゴブリンを探しましょう」



 そう言った瞬間、シエラの後ろにある茂みの中から二匹のゴブリンが飛び出してきた。

 ゴブリンは手に持つ木の棒を振り被りシエラに襲い掛かる。



「シエラ後ろだ!」



 俺が必死で叫ぶがもう間に合わない。

 後ろを振り返ったシエラの頭部に二つの木の棒が叩き込まれた。

 ゴン!と鈍い音が聞こえシエラが悲鳴を上げる。



「きゃぁあああ!!」



「シエラ!」



 シエラは頭を押さえ蹲る。

 が……


「あれ?痛くない?」



 シエラは不思議そうに自分の頭を摩っていた。

 そして大丈夫と気付くと、持っている杖を近くのゴブリンに横薙ぎに振り払う。


 次の瞬間、鈍い音と共にゴブリンの体が吹き飛ばされ、近くの木に勢いよく叩きつけられた。

 血は然程出ていないが、ゴブリンの体は大きくひしゃげて間違いなく絶命している。 



「えぇぇ!」



 シエラ本人が一番驚いていた。

 何が起こったのか理解できずに目を丸くしている。

 目の前の光景に俺も呆然としていた。



 嘘だろ……

 いや、シエラの平均ステータスは俺の4倍以上。

 俺が一撃で倒せたんだ。

 シエラが倒せるのは当たり前じゃないか。

 これだと俺が前衛をやる意味がない気がするな。 



 もう一匹のゴブリンは一目散に逃げ出し、影も形もなくなっていた。



「シエラ、大丈夫か?」


「はい、全然平気です」



 シエラは何でもないと頭の汚れを手で払っている。



「やっぱりシエラは強いんだな。俺よりステータスも高いし本当に頼りになるよ」


「えっ?そ、そうですか?」


「俺がいなくてもシエラだけで依頼は終わるんじゃないか?」


「もう依頼は終わりですよ。

 Gランクの中でも簡単な依頼を選びましたので、ゴブリン討伐は二匹で終わりです」


「そうなのか?そういえばどうやって討伐したことを証明するんだ?」


「魔物の体の一部を持って行くんですよ。ゴブリンの場合は頭の角ですね」



 シエラは袋から小さなノコギリを出してゴブリンの角を落としていった。

 俺もやってみたが角は固くて中々切るのが難しい。

 結局シエラの倍以上の時間を費やしていた。

 俺は汗を手で拭うと、切り終えた角を袋に回収する。



「よし帰るか。これなら明るいうちに街に戻ることができる」


「そうですね。早く帰りましょう」



 俺たちは来た道を戻り街へと急いだ。



 冒険者ギルドに着いた時には、まだ陽も高く冒険者の数も少なかった。

 カウンターで討伐証明の入った袋を差し出し報酬を貰うと直ぐに宿へと戻る。


 部屋に戻ると俺は装備を外して服を脱ぎ捨てた。

 歩き通しでもう動けないと、そのままベッドに倒れ込む。

 自分が思うより疲が溜まっていたのかもしれない。

 暫くすると静かに寝息を立てて寝てしまった。


 そんな光景をシエラは微笑ましく眺めていた。



 まったく私の旦那様は仕方ないですね。

 それにしても森での出来事はなんだったのかしら?

 まさかゴブリンが簡単に吹き飛ぶなんて……



 シエラは自分のステータスを確かめるため認識票に魔力を込めた。

 すると……




 ランクG

 種族 人間

 名前 シエラ・フォーゲル・シュタイン

 年齢 16歳


 Lv  2

 HP 256

 MP 275

 攻撃 129

 防御 149

 魔力 172

 抗魔 185

 敏捷 147

 耐性 291


 魔法 治癒魔法(初級)




 ステータスが大幅に上がってる?

 どうして、レベルは変わっていないのに……



 確かにレベルが上がらなくてもステータスは上がる。

 たが、それは微々たるものだ。

 稽古を積めばそれなりに上がるがそれでも時間はかかる。

 昨日の今日で3倍のステータスは有り得ない事だ。


 シエラは訳が分からず小首を傾げるのであった。




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世界最弱のヒモ男、ハーレムで無双する 粗茶 @hsd5s63

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