世界最弱のヒモ男、ハーレムで無双する

粗茶

第1話 

 疲れた……流石に続けて3発はきつい。

 明美あけみのやつ日増しに性欲強くなってねぇか?

 これから弥生やよいともしなくちゃなんねぇし、ヒモも辛いな……


 俺の名はすめらぎ勇也ゆうや、22歳住所不定無職。

 女のアパートに転がり込んでは世話になっている、所謂いわゆるヒモ男というやつだ。

 さっきまでキャバ嬢の明美の部屋に転がり込んで相手をしていた。

 出勤前にせがまれ3回抱いたが、俺はこれから他の女と予定がある。

 複数の女と付き合っているが、その女の一人が今日誕生日なのだ。


 流石に会いに行かなければならない。

 ヒモ男は女に愛想を尽かされたら生きてはいけないのだから……


 そんな訳でこれから誕生日の女、弥生を抱かなければならないのだが……正直辛い。

 今日は朝からもう8回女を抱いている、流石にそろそろ限界が近い。

 複数回せがまれたら……と、童貞が羨むようなことで俺は悩んでいた。


 そうこうしている内に、弥生の住んでいるアパートにたどり着いた。

 弥生は普通のOL、もう帰ってきているだろう。

 案の定、弥生の部屋には明かりが灯っている。

 合鍵を使い部屋に入ると弥生が嬉しそうに抱きついてきた。



「お帰り勇くん、今日は何処に行ってたの?

 部屋にいると思ってたのに……」


「ちょっと出かける用事があったんだ。

 寂しい思いをさせて悪かったな」



 俺が抱きしめ返して唇を重ねると、弥生はそんなことはないよと首を横に振った。

 部屋に入ると美味しそうなチキンやケーキが用意され、部屋が誕生日仕様に飾り付けられている。


 この様子だとかなり前に帰宅していたのだろう。



「弥生、誕生日おめでとう」



 俺はそう言うと安物のアクセサリーを手渡した。


 ちなみに明美から貰った小遣で買ったものだ。

 俺は無職、収入は貢物以外全くない。



「ありがとう勇くん」



 そんなこととは露知らず、弥生は嬉しそうに安物のピアスを耳にあてがう。

 鏡でそれを確認すると。



「どうかな似合ってる?」


「ああ、良く似合ってるよ。弥生にピッタリだ」


「へへ、やったね」



 弥生が嬉しそうにはしゃいでいると、バンッ!と不意に入口のドアが開け放たれた。

 そこに立っていたのは……



 明美!?

 なんでここに!

 今日は店に出るはずじゃ……



「だ、誰ですか?部屋を間違えてますよ」


「いいえ、間違えてないわよ。ねぇ、勇也?」



 お前なんてことを!

 俺に振るなよ!



「どういう事?ねぇ、勇くん。

 あの人、勇くんの知り合いなの?」


「い、いやぁ、その……」


「私と勇也は一緒に暮らしてるのよ」



 明美は仁王立ちで、許さないと言わんばかりに俺と弥生を鋭く睨みつけた。



「はぁ?何言ってるの?勇くんは私と同棲してるのよ」



 だが、弥生も明美を睨みつけ一歩も引こうとしない。

 勇也が他の女性と付き合っているなど微塵も疑っていない様子だ。

 しかし……



「証拠を見せてあげる」



 そう言って明美は自分のスマホで撮影した二人の写真を弥生に見せた。

 中には裸で抱き合っている写真まである。



「……ねぇ、勇くん。これ……どういう事?」


「えっと、だな……少し遊んだだけというか……」


「少し遊んだだけ?もう1年以上も一緒に暮らしてるのに?」



 明美の言葉を聞いて、弥生は真っ青な顔で呆然としていた。



「殺してやる……」


「えっ……弥生…さん?」



 俺が尋ねるように話しかけると、とんでもない返答が返ってきた。



「勇くんを殺して私も死んでやる!」


「お、落ち着け!俺を殺してなんになる!」



 弥生はテーブルに置いてあった果物ナイフを手に取ると、真っ直ぐ俺に突きつけた。

 目が血走り正気の沙汰ではない。

 凄まじい形相でナイフを握り締めている。

 そこには普段の優しい面影は微塵も感じられない。



「あ、明美、助けてくれ!」


「勇也は一度刺された方がいいんじゃない?」



 透き通るような冷ややかな声が勇也の胸を突き刺した。



 何を馬鹿なことを!

 俺はまだ死にたくない!



「さぁ、勇くん。私と一緒に死にましょう!!」



 弥生は手当たり次第にナイフを振り回し始めた。

 明美は身の危険を感じたのか直ぐに外に逃げ出している。



「ちょ、危ない!やめろ弥生!」



 だが、その声は届かないのか、弥生はナイフを振り回し続ける。

 ナイフが何度か俺の皮膚を切り裂き戦慄が走る。


 やばい!

 俺も早く逃げないと!



 俺は靴も履かずに無我夢中で外に飛び出した。

 その後を弥生が尽かさず追ってくる。


 俺は必死に走った。

 もう大丈夫かと後ろを振り返るも弥生は止まらない。

 まだ追ってきている。

 

 路地に入り高架下を潜る。

 ひたすら走っていると、いつの間にか知らない場所に出ていた。


 後ろを振り返ると、もう弥生の姿は見えない。

 どこまでも深い暗闇だけがそこにはあった。

 どうやら振り切ることが出来たらしい。


 俺は一息ついて辺りを見回す。

 所狭しと低い建物が密集しているようだ。

 細い路地に入ったらしい。

 スマホも財布も弥生の部屋に置きっぱなしで所持品は何もない。


 俺は一人途方にくれた。



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