これは夢なのか現実なのか 進化したAIはついに危険な領域へと突入する
- ★★★ Excellent!!!
この作品は架空のインターネット社会史を記述するモキュメンタリーですが、この作品の中で記述されている事件は実在する事物とフィクションの部分が巧妙に絡み合っていて、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、境界線が曖昧です。実在する部分もgoogleやwikipediaなどのメジャーなものと、恒心教や淫夢などのネットのディープな部分が混ざり合っています。真面目なノンフィクション文体の中に、唐突に「ホモコースト」が登場する、そのギャップは本作独自のものです。実在人物も、現在生存している人物を勝手に殺していたりと、フリー素材のような扱いを受けていて、読者に倫理観への挑戦を仕掛けているのではないかと思うほど。これらの要素が合わさった結果、この作品を読むことによって、渾然一体としたネットの混沌を擬似的に追体験することができます。
惜しむらくは、2018年の作品なので、AIとインターネットといった最新技術や時事ネタが題材なのも相まって、内容が少し古びてしまっていることです。安倍晋三元総理銃撃事件やSyamu_Game復活を経ていない時代の作品だということを考慮する必要があります。しかしこの作品の輝きはいささかも失せていないと思います。時代のアングラな潮流を真空パックした近未来は、月日が流れるにつれてかえって新鮮に映るでしょう。