きっと彼らは私だ

 他者を理解することがどんなに難しく、尊いかを題材にした物語です。
 場面構成や脇役の役回りも含めて、隅々までよく考えられていることにまず感服しました。特に登場人物が、特別変わった性格というわけでもないけれどその心情や立場に共感や嫌悪や呆れ、同情できるから印象深い。嫌な物言いだと思った役人に似通っていることに気づかない主人公と相手に配慮しない獣人が、交流を通して互いのことを理解し、理解することについて考え嘆く場面の描写はただ切なく、同時に考えさせられます。

 この役人を嫌悪する自分こそ、この役人ではないのか。相手を理解できず愚行に走る獣人こそ、自分ではないのか。彼らに賢しらに説教したり安易な慰めをかける主人公こそ、自分ではないのか。
 できるなら、己は相手のことを理解できないのだと嘆く獣人でありたい。理解できないと理解した上で共に生きようとする主人公でありたい。そう思います。