第15話 何かがほしい。⑨

香子はファン達を先に現場に行くよう促したあと、ゲストと待ち合わせている場所へ移動した。

駅から歩いて二分、アルシェのCD売り場。


そこにもファンの三人同様の方法で、何処何処のコーナーにいるのが誰々と言うように配置している。


CD売り場に到着するや、店内を見渡す。

一番手前、邦楽のランキングコーナーに立たせ9位にランクされてるミュージシャンのCDを眺めている女。

これが「杏菜」だ。

肩をポンと叩くと体を強張らせつつ振り向いた。

こちらが「のこ」だとすぐに気づいたらしく相好を崩す。

杏菜を伴い、次にロックのコーナーでSyrup16gのアルバムを眺めている女に声をかけた。

これが「ゆま」

次いでヒップホップコーナーにいる「せら」

これで三人合流した。


「では集まりましたので、スタジオに向かいましょう」

四人の女がロータリーに向かい、タクシーを拾った。

香子はもとより、それぞれ特徴のあなるファッションだ。

運転手もさぞ小気味悪かったことであろう。

杏菜はスキニージーンズに白い肩の部分のみ露出したカットソー。メンバー唯一の長袖である。恐らくリストカットの痕を隠すためだろう。

髪はこのご時世に真紫に染め上げている。かなりの長身だ。身長156の香子の座高とかなり差がある。年齢は21と言うが老けて見えた。


ゆまはぽっちゃりの域を完全に脱してしまった肥満体だった。

髪型は兵藤ゆきばりのパンクで、恐らく男物であろう大サイズのラグランを着ている。

履いているクロックス擬きが、両の内側がかなりすり減っていることに加え田植えでもやったかと訊きたくなるほど汚れている。香子と同い年らしい。


今日のメインゲストせらはと言えば逆に(香子含め)このメンツでは一番社会性があると言うかまともなファッションなのだから面白い、と香子は内心ほくそ笑んだ。


せらは恐らくそれなりに値の張るであろう白のサマーニットにブラウンのスカート。

所謂コンサバである。

年齢は非公開で、との事だったがまず間違いなく20代はないだろう。贔屓目に見て34、5。妥当な線で37、8。下手すれば40オーバーかもしれない。

化粧と髪型が、タイトルは思い出せないが幼少期に見たトレンディドラマのヒロインのそれだ。


なるほど、あながち私の目に狂いはなかったかもしれない。

香子はまた内心で呟いた。


一通り観察が終わるとタクシーは目的地のラブホテルに着いた。

タクシー代は勿論割り勘。

ラブホテルの入り口、ペラペラと軽薄な目隠しをくぐったところで香子が口を開く。

ここで一芝居。

「複数名で入るために誓約書的なものを書かなくちゃいけないので待っててください。集団自殺とか犯罪とか多いみたいなんで。」

と、ワンクッション入れ集団から一時離脱してからフロントにてキーを受け取るフリをする。フロントの中年女にそっと「待ち合わせの依田ですが」と告げ、件の部屋の電子ロックを解錠してもらう。


エレベーターにて三階に上がり、部屋の前で予め用意していた偽キーを差し込むフリをして部屋に入る。

中々の広さだ。

それも当たり前だった。


マジックミラールームなる変態向けの設備がある部屋を借りたのだから。

要は部屋の中にもう一つ(ホームページには覗かれ部屋となっていたと思う。)マジックミラーで隔てられた小部屋がある。内側から見ればただの小部屋だが外から見ればガラス張りの部屋だ。

小部屋の中の電気を消しておけば、外からはただの部屋にした見えない。


そこに三人の女を通す。

「さぁ、でははじめましょうか。皆さん、飲み物は?」

と尋ねるも、皆持参していたようだ。各々がバックから取り出した。


ここからが佳境だ。

『傍観ゲーム。詐病女はだーれだ!の始まり始まり〜』

香子はブログを更新した。

気疲れないよう隅に隠したビデオカメラのスイッチを入れると同時に。

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言の庭 唾 涎 @soy1154

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