第7話 空へとのばす手

 地学室の先にある屋上には雲と星を食べるあやかしが棲んでいる、と教えてくれたのはマナだった。

 そしてマナはそのあやかしのことを先輩と呼んでいた。


 雲と星のおいしい食べ方を教えてくれた、この学校の先輩でもあり、人生(?)の先輩でもあるからと。


 一年の秋、クラスが違ったわたしはマナがどんな目にあっているのかちっとも知らなかった。

 マナはいつも飄々としていたし、マナが自分からそういう話をすることもなかった。

 わたしがマナの状況を知ったのは、後期にマナと同じ図書委員になったからだった。

 委員会で集まった時、一緒に図書当番をした時、マナと同じクラスの生徒たちの、マナに対する接し方を見て気づいた。


 このままじゃだめだよ、先生に話そう。


 わたしが何度そう言っても、マナは首を横に振るばかりだった。

 このくらい、なんでもないから、とそう言って。


 マナの担任が気づいていたのかどうかわからない。

 わかるのは、結局三月のあの日まで、なんの手も打たれなかったということだけ。


 だからって担任を責めることなんてできない。

 わたしだって、結局なにもできなかった。


 ただ一緒に雲と星の話をして、一緒に笑い合っていただけ。

 それでも、マナはわたしと一緒にいると、幸せだって言ってくれた。

 楽しいって言ってくれた。

 わたしも、本当に幸せだったし、楽しかったんだ。


 

 わたしは今日も空を見上げる。

 昼なら雲を、夜なら星を。

 そうすると、そばにマナがいるような、すぐ隣で微笑んでくれているような、そんな気がするんだ。


 ねえどれがおいしいかな。

 あれなんかどう?


 そんな声が聞こえたような気がして、わたしは空に手をのばした。

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雲と星のおいしい食べ方 ユウリ・有李 @yuraOoO

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