第4話
「ズバリ聞きます。あなたたちは何ですか?」
ゴブリンの集団が撤退してしばらくして、ユマは二人に尋ねた。
「なにって?」
「何がだ」
シロウに渡されたタオルでゴブリンの返り血を吹いていたヤコも、彼女の手が届かないところを手荒く拭いていたシロウも不思議そうな顔で尋ね返してきた。
「だからその……」
しかし、上手く伝わってないようなので更に言葉を重ねた。
「……あなた達のその異様な強さは、なんですか?」
魔術的なものかと思ったが、ジャイアントリザードに追われていた時と違い、落ち着いて二人が戦う所を見てユマは確信した。
この二人は魔術を使っていない。というよりも、使えない。
なのに、あの強さは何なのだ。
「百歩譲って、あなた達が卓越した戦闘技術を持っているのだとしても、やはり時折人間離れした挙動がありました。それを魔術なしに出来るというのが、一人の魔術師として納得いきません」
「納得できないって、言われてもなあ」
ヤコが苦笑いをしながらシロウに視線を向けた。
「どうするシロウ?」
「……そうだな」
ヤコを拭き終えたシロウは、思案顔でユマを見る。
「気は進まないが、説明を求められて拒否するような事でもない」
「………お願いします」
たまたま出会っただけの人に踏み込みすぎるのはどうかと、ユマも自分でも思う。
しかし、気になってしまったものはしょうがないし、尋ねた時点でもう後には引けなかった。
「得体の知れない奴らと一緒というのは怖いだろう。まあ、信じる信じないはお前次第だろうが」
そう前置きして、シロウは話し始めた。
「ジャイアントリザードやゴブリンみたいに、自然界に存在する魔力を取り込んだり、元からそういう存在として生まれた強力な力を持つ生物――『魔物』が世界には数多く生息している。これは知っているな」
「は、はい」
それはこの世界の常識だ。寧ろ『魔物』との衝突は人間の歴史と言っても過言ではない。
脅威にはならず、寧ろ飼われている『家畜級』。
武器が扱えれば対処できる『獣級』。
手練れが最低一人は必要だという『魔獣級』。
手練れが最低でも四、五人は必要という『獣人級』。
大規模部隊で勝てるかどうかという『怪獣級』。
そして、人ではまず太刀打ちできないとされる『神獣級』。
これらのランク付けに当てはめると先程襲われたジャイアントリザードやゴブリンですら、『下位魔獣級』と『下位獣人級』。
つまりあれ以上の『魔物』は、この世界にはゴロゴロといる。
「人間はそんな『魔物』達の脅威と戦いながら日々を暮らしている。時には強力な武器を開発し、時にはお前が使っていたような魔術を編み出し、時には温和な『魔物』と共存の道を見出し、時には国を挙げて軍隊を編制し……ついには『魔物』に対抗する為にその『魔物』そのものの力を組み込んだ新人類――デミヒューマンをも生み出した」
「デミヒューマン」
初めて聞く単語を復唱しつつ、つまりはとユマは整理する。
「二人はその、デミヒューマンなんですか?」
「うん!」
「そうだ」
「……はあ」
ユマは困惑した。
確かに『魔物』への対策として武器や魔術が発達しているのは知っているし、知能が高い『魔物』とは共存の道を探ったり、軍隊や自警団を組織している事は知っている。
しかし人間に『魔物』の力を組み込むという、突飛押しもない話はにわかには信じられなかった。
「つまりその……あなた達は、『魔物』の力を持っているという事?」
「そうだ」
ハッキリと断言したシロウの言葉を、正直ばかげた話だとユマは思った。
いくらなんでも『魔物』の力を人間に持たせるだなんて、ありえない。
料理のように二つの材料を混ぜ合わせれば何かできるというのとはわけが違う。
寧ろ世間知らずの自分がこの二人におちょくられていると思った方が、まだ可能性としてあり得る。
「信じないならそれでもいい。そんなのも居るかも知れないくらいには思っておけ」
「…………」
『魔物』の力を組み込まれた人間。
にわかには信じがたいが、どうも嘘だと断じる事が出来ない。
二人の異常な身体能力は自分もこの目でしっかりと見ていて、あれはかなり人間離れしたものだとも自分で言った。
寧ろ『魔物』の能力、それこそ身体能力を有しているなら説明が付くと言えば付く。
「それでユマ、どうする?」
不意にシロウにそう尋ねられ、ユマは首を傾げた。
「どうする、とは?」
「このまま町まで一緒に行くか?」
「え? 一緒に行かないのシロウ? あたしは行きたいよ! もっとユマとお話ししたいー!」
騒ぐヤコをシロウは手で制した。
「ユマの気持ち次第だという話だ。さっきも言ったが俺たちの様な得体のしれない……」
「得体が知れなくはありません」
ユマは二人の下へ歩み寄り、二人の顔を交互に見た。
「助けなくても良かった私を助けに来てくれて、ゴブリンもほとんど殺さず撃退するくらいに優しい人たちだって、私はもう知っています」
ユマはニッコリと笑って二人を見上げた。
「むしろスッキリしました。ありがとうございます。それと、町までですがよろしくお願いします」
「……いいのか? 俺たちは、デミヒューマンなんだぞ?」
「関係ありません」
ユマは力強く頷いた。
「私はあなた達の強さの理由を知りたかっただけで、危ないかどうかなんて、もう考えるまでもない事ですから」
「…………」
きょとんとしたのシロウをユマが見ていると、
「うん! よろしくね!」
「ぐげぇっ……!」
ヤコが飛びついて来て、派手に倒された。
「……ふっ」
「わ、笑わなくてもいいじゃないですか!」
ヤコにすり寄られながらユマが怒っていると
「いや、俺たちを危なくないと言ってくれたのは……お前が初めてだったんでな」
その一瞬、シロウが薄っすらとだが、初めて笑ったところを見た気がした。
「ほら、行くぞ。もう町も近い」
「……はい」
そうして差し伸べられた手を、ユマは握り返した。
デミズジャーニー リュウ @dragon88
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