終章

 佐藤君は死んだ。


 川で泳いでいると、いつの間にか佐藤君の姿が見当たらなくなっていた。ちょっと前まで一緒に川で泳いでいたのだ。陸に上がったとも考えられなかった。



「流されたんだ!」



 園原君はすぐに警察と消防に連絡した。警察はすぐに来た。私も陸から佐藤君を探した。しかし、佐藤君は川底で見つかった。特に何かに引っかかっていたわけでもない。漂うように、川底に沈んでいたという。


 その日は異常だった。その川で佐藤君以外にもう一人が溺れて死んだ。全国でも十人以上の溺死者が出た。新聞の記録を探せば、その日のニュースが出てくるかもしれない。特集も組まれたほどだった。


 佐藤君が川で発見された頃、佐藤君の母親は地元で佐藤君の姿を見た、という。もう帰ってきたのかな、と思って佐藤君の後を追うと、いつの間にか佐藤君はいなくなっていた。現場から佐藤君の家まではかなりの距離がある。その時間、その場所に佐藤君がいるはずがないのだ。しかし、母親ははっきり見た、と言っていた。


 また、佐藤君が死んだ時刻に私の家の飼い犬も死んでいた。数日前から弱っていたので、これは特に驚かなかった。いや、もはやこの頃には驚く気力も失っていた。


 話はこれで終わらない。佐藤君が死んでから、私たちの周りで不思議なことが頻発した。


 まず、高校の先生が死んだ。秋のことだった。私や、佐藤君もお世話になった先生だった。卒業した後も、私たちのことを心配してくれていた、厳しくも優しい先生だった。


 また、中学校の友人が死んだ。その友人は、私と佐藤君の共通の友人だった。まだ二十歳にもなっていない。早すぎる死だった。


 他にも、友人の家族や親戚、その年だけで葬式に五回は出ただろう。その度の参列者は、変わらないメンバーだった。


 不思議なことはまだあった。数年後、もう事件のことが風化してきたと思ってきた頃だった。園原君から電話があった。また遊びの誘いかな、と思ったが、違った。



「……また、死んだよ」



 今度は、一緒にキャンプに参加した一人が死亡したのである。早めにテントに入って寝てしまった四人のうちの一人だった。奇妙なことに、死因は不明だという。何度も園原君に尋ねたが、急に心臓が止まった、ということだった。別にその友人は病気だったわけではない。


 私は呆然となった。もしかしたら、だんだんと私に死が近づいてきているのではないか、と思った。


 そして、今でも思い出すのがあの日の佐藤君の言葉である。



「やっぱりいいや。このことは、地元に帰ってから話すよ。生きて、帰ったら……」



 彼は、生きて帰ったら何を話そうとしたのだろうか。彼は、その夜に何を聞いたのだろうか。今となってはわからない。


 もし、これを読んだ誰かで、この話を理解できる人がいたら教えて欲しい。彼は、何を言いたかったのだろうか。私は、何をすればいいのだろうか。




                 了

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生きて、帰ったら…… 前田薫八 @maeda_kaoru

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