最終話

 みんなで写真を撮ったり、褒め合ったりして、ちょっとした打ち上げみたいなこともして。

 その後、後片付けのために残った教室で私は清と二人、並んだ机の椅子に座っていた。


「ようやくできたね」

「うん」


 できあがりラッピングも済ませた千羽鶴を眺めて、ちょっと感傷に浸る。


「あ〜、なんかもう終わっちゃったのか、ってちょっと残念」

「そうだね、あっというまだったね」


 二人で隣り合ってつぶやく。


「ウチさ、折り紙って全然やったことなかっケド、ホント、やってよかった」

「うん、僕もやれてよかったよ。いつも一人で作って満足してたけど、こういうのも楽しいね」

「マジで?」

「マジで」

「う〜〜よかった。無理矢理巻き込んで迷惑ばっかりかけてたから、実はイヤだったって言われたらどうしよ、って思ってた」

「あはは、確かに最初は面食らったけど、大丈夫。楽しかった」


 二人で少し無言になった。私は思いきって口を開く。


「そういえば、清、好きな人いるって言ってたけどあれって誰なの?」

「え……? そ、それは……ええと……」


 清は、突然の私の問いかけにしどろもどろになって黙ってしまった。顔が折り紙の赤ぐらい真っ赤になっている。


「やっぱいいや! うん、なしなし! それよりもさ、最後に、ウチのためになんか折ってよ」

「え?」

「いいじゃん、なんか清のおすすめの。ウチに折って?」

「……わかった、いいよ。ちょっと待って」


 私の無茶なリクエストに応えるために、清は残っている折り紙を広げる。

 その中から一枚の赤い折り紙を取り出して、折っていく。

 その手つきはやっぱり見惚れるぐらいなめらかで、太くて大きな指が、紙をやさしく器用に折っていく。ずっと思ってたけどこの手つきってちょっとエロい。

 清はいつもよりも凝ったなにかを丁寧に折ってくれた。時間にして一五分くらい。

 私はその間、ずっとその手を眺めていた。


「はい、できた」


 そういった清の手の中には、鶴によって囲まれた赤い薔薇の花。


「すごっ……なにこれ、一枚からどうやって作ったの!?」

「えへへ、ちょっとがんばった」

「マジか……ホント、すごい。すごいよ」


 改めて、折り紙と、清のすごさに私の涙腺が緩む。


「改めて亜里砂さん、ありがとう。それから、お疲れ様」


 清はそういって私に薔薇を差し出した。私はそれに手を伸ばし、受けとろうとして、これで本当におしまいなんだと思った。

 そしたら、身体が止まった。


「あ〜〜う〜〜〜、やだ」

「え?」

「やっぱり、これで終わっちゃうなんてヤダ」

「そ、そういっても……」


 薔薇を差し出したまま困った表情の清がいう。


「ねぇ清。これからもさ、こうやって折り紙折ってよ。それで、ウチにも折り方教えて?」

「え?」

「ダメ?」

「いやっ、全然! もちろん、大歓迎だよ!」

「ホント? やった、約束だかんね」


 私はそういうと、所在ないままの清の手から薔薇を受けとった。

 手の中でじっくりと見ると、その繊細さにしびれる。

 いつか私もこれが折れたら良いなと本気で思った。


「ところで、なんで鶴の薔薇? 一度も見たことなかったけど」

「え、それは……ええと……」


 再びしどろもどろになった清に、私はふふ、と笑った。

 私たちの折り紙は、これからも続いていく。

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千羽の鶴に恋 晴丸 @haremaru

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