追稿(3)藤井聡太—加古川青流戦(都成龍馬戦)

 平成二十九年七月十一日。若手棋士の登竜門である「加古川青流戦」にて、三十一勝目をかけて都成龍馬四段と、関西将棋会館にて対局し、130手で藤井四段が勝利をおさめた————。


 この戦いもまたゾッとするような藤井四段の勝負師っぷりを見せつけられた一戦であった。面白いというか怖いくらいの将棋だった。


 この日の相手の「都成龍馬四段」は今回で三回目の対戦となる。過去二回とも藤井四段が勝っているので、都成四段としては何がなんでもリベンジしたい一戦であった。


 さて、この都成龍馬四段の簡単なプロフィールを紹介しておこう。


 宮崎県出身で小学校五年の時に「全国小学生将棋名人大会」で優勝し、その年の九月に六級で奨励会に入会している。師匠は元将棋連盟会長の谷川九段である。(谷川元会長は都成しか弟子をとっていない)

 誕生日が一月十七日で、谷川会長に弟子入りの嘆願の手紙に自分の誕生日が「阪神淡路大震災」の日と重なることを書き伝えたとのこと。谷川会長の自宅は神戸で、被災されている。


 十七歳で三段リーグに上がるが、そこから二十六歳の年齢制限の歳まで昇段できずに、二千十五年の後期三段リーグにてようやく昇段を果たした苦労人である。ただ、三段リーグ時代にプロ棋戦である「新人王戦」で三段リーグ在籍者として史上初めて優勝している(新人王戦は三段リーグからも参加できる)

 従兄弟に俳優の松崎悠希がいる。しかし、都成龍馬もまた将棋界で一、二を争うイケメンである。現在二十七歳。



 さて、一戦の内容であるが、序盤は藤井四段ペースで進む。

 都成四段は得意の「ゴキゲン中飛車」という「飛車」を中央五筋に振る戦法を取る。藤井は居飛車で囲いは「舟囲い」。中盤過ぎまで、中央ラインを完全に藤井に制圧された格好で都成四段は苦しい展開であったが、徐々に押し返して、ついに「角」が藤井の王様の鼻先を狙う位置にまで移動でき、かつ「と金」を作ってあと一歩まで追い込む。

 この時、私は「次の一手」が都成にないとは分かっていたが、かなり追い込まれた藤井四段の負けもあると思った。事実、その時はまだ都成四段の「王様」には一度も手が届いていなかったのだから。謂わゆる「カナ駒」と呼ばれる、「金や銀」が都成四段が手にすれば「即詰み」である状況だった。


 そこで藤井四段が繰り出したのは「相手に渡してもいい駒」である「歩兵」を三連発で都成四段の「王将」のすぐ右横の筋(一筋)で守っている「香車」の頭に叩きつける。釣り上げられた「香車」そして「鬼手——2五桂馬打」でついに、藤井四段の「角」筋が都成四段の「王将」の右斜めに通り効いてきた。

 こっから怒涛の終盤の「寄せ」が炸裂した(この日の勝因の一手である2五桂馬打——はまさに漫画に出て来そうな鬼手だった)のだが、最後に都成四段の「王様」を詰めるにはもう一枚「カナ駒」が足りない。


 そこで、藤井四段はギリギリ都成の最後の攻めを受け止めることでその途中で「カナ駒」を手に入れるという「肉を切らして骨を断つ」の戦法で最後はコンピューターの形勢予測も覆すような「光速」で詰みあげた。


 藤井四段の「王様」が都成四段が「カナ駒」を一枚持てば「詰み」という場面での一手空き(一手違いで勝つという将棋用語。厳密にはまだもう少しの余裕はあったが明らかに敗勢であった)からの反撃であった。

 まさにこの日も真骨頂である「魅せる将棋」を堪能させてもらった。


 負けた都成四段は同じ相手に三連敗という屈辱を味わうことになる。勝負の世界の厳しさを見せつけられた。


 ハラハラ、ドキドキの終盤戦。


 ——わざとやってるんじゃない?


 って思うほどの「肉を切らして骨」の戦であった。


 こうして見てみると、連勝を止めた佐々木勇気五段の凄さがわかるというものだ。佐々木勇気五段、日曜日の「竜王戦決勝トーナメント」で藤井四段が佐々木五段に勝っていれば戦うはずだった「阿久津八段」との一戦で勝利している。ひょっとして、ひょっとすると———佐々木勇気五段の「竜王戦」挑戦があるやもしれないですね。


 いやぁ、最近の将棋界、面白くなってきましたよ、ほんと。


 では、藤井聡太四段、三十一勝目おめでとう———ってことでこの「追稿」を了としたい。


 また、次回をお楽しみに‥‥‥



                      一将棋ファン

                         千葉 七星   


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【天才棋士】——藤井聡太、彗星のごとく現る 千葉七星 @7stars

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