虹の架かるその時まで

「彼女はこの世界に存在を証明していた。そんな気がした」

美しい海を持つ都会から離れた町の高校に入学した湯川虹希（ゆかわこうき）。
丘の上に建つ高校の教室の窓からは、この町を一望できる。
彼は今は亡き父の面影を追い、此処にいる。
しかし、将来への希望を見出せず無感動に日々を過ごした。
そんな彼の世界に風をもたらしたのは、カメラを構えた夜久穂沙那（やくほさな）だった。
高校一年、二人は同じクラスだった。
夏休みを前にして、隣の席になった。
彼にとっては珍しく、人と関わる生活を送ることとなった。

彼女との出会いが、関わりが、彼の心を捕えつつあった。
曇っていた彼の瞳に、光を灯しつつあった。
「やっと君に近付いた気がする。果てしないと思ってたんだ、君までの距離が」