第8話 解放
「くそっ!!」
進一郎は自分の鎖で繋がれた右腕を左手で作った拳で悔しげに叩いた。
最後の24時間も、刻一刻と過ぎてゆく。
その間進一郎は、どうにかして脱出、若しくは響香だけでも助かる方法を模索するのだった。
「脱出経路はなし……ナイフか何かかあればこの右腕を切り落として君を冷蔵庫の中に隠しておくことができるのに……」
爆破から唯一助かる方法は冷蔵庫の中に隠れる事。大きな冷蔵庫ではあるが、二人で入るスペースはない。かといって爆破に耐えれるかどうかは未知数だ。しかし何もせずに爆破に巻き込まれるよりはマシだ。進一郎はそれが一番生存率が高いと踏んだのだ。
「そんなことしなくていいよ、私は進一郎くんと一緒なら死んでもいいよ」
「だ、駄目だよ! 君だけは生きて欲しいんだ!」
「ありがとう進一郎くん。でもいいの……ねえ、小さな頃話たこと覚えてる? この世界が滅亡する最期の日。その日をどうやって過ごしたいか? って」
「そんなこと話したっけ?」
「うん」
「僕は何か答えた?」
「進一郎くんは、『最後の日は響香ちゃんとずっと一緒にいるよ』そう言ってくれた」
「そうだったか? もう忘れちゃったよ」
「嬉しかった。だって私も同じ気持ちだったから」
そんなことを思い出しながら、センチメンタルになった響香は進一郎の肩に寄りかかる。
「だから、一緒にいるだけでいい。もう何もしなくていいよ」
誘拐犯の要求が受け入れられカウントダウンが止まろうが、時間切れでこの部屋が爆破されようが、進一郎となら全てを受け入れると響香は言う。
残された時間を少しでも心静かに二人で過ごそうと。
その後二人は時間が許すまで普通に過ごした。
普通に会話し、食事を摂って、お風呂に入り、綺麗な身体で時間切れまでの行方を見守る。
そして残り10分を切っても、カウントダウンは止まらなかった。
「交渉は決裂かな……」
「そうかもね……」
覚悟を決める二人。
そして1分を切る。
「進一郎くん。今までごめんなさい。冷たく当たって、素直になれなかった私──」
「もういいよ。そんなことは今はどうでもいい」
そうして進一郎は自分の唇で響香の唇を塞ぎ、言葉を遮るのだった。
最後の時は言葉などいらない。ただカウントダウンがなくなるまでの間二人は熱いキスを交わすのだった。
照明が落ちて暗闇になった。モニターの数字は3から下がる。
──3・2・1……
『『どっかーん!!』』
「「──!!」」
突然モニターが付いている壁全体が動き出し、外の眩い光が部屋へと差し込む。
そして何者かが、どっかーん、とふざけた爆発音を口で言いながら部屋へと侵入してきた。
「進一郎! 響香君! どうかな? ビックリしたかな?」
「響香、少しは進一郎君を好きになったか?」
「「……」」
姿を見せる誘拐犯二人に、あんぐりと口を開けて何も言えない進一郎と響香。
「どうもおかしいと思っていたら……やっぱりあんた達だったか!!」
はたと怒りがこみ上げて来た進一郎は、そのふざけた二人に向かって怒鳴る。
ふざけた誘拐犯は、内閣総理大臣様と花菱の社長だった。
「お、お父さん! ナナナ、何でこんなことを!!」
進一郎の怒鳴り声で、ハッと我に返った響香も父親へ厳しく詰問する。
「だって、折角許嫁の約束もしたのにお前等全然進展しないからさ」
「だって、じゃないわよ!」
響香は今にも父親に掴みかかろうかとする剣幕だった。
「どうだ進一郎。ストックホルム症候群だろ?」
「いや、それは犯人側へ芽生える心理だろ? 僕も人質だぞ?」
「あれ、違った? ああ、あれだ。割り箸効果!」
「吊り橋だよ! 割り箸で飯食って恋に芽生えるのか? バカかよ! 少しは秘書任せにしないで勉強しろよ!! ああ、もういい! おやじ、この拘束具の鍵を寄越せ!」
総理大臣の父親から鍵をもぎ取り、響香の左腕と自分の腕の拘束具を解錠する。
15センチの拘束がやっと解き放たれた。
そして、ふざけた誘拐犯二人に向け進一郎は言い放つ。
「いいかよく聞け! 僕はあんた達みたいなふざけた大人にはならない。あんた達の言いなりになるのは真っ平ごめんだ! 自分の道は自分で決める。だから僕は僕の選んだ人と結婚する!」
その言葉を聞いて響香はショボンとした。もう進一郎には決また相手がいるのだと。
「国会議員でも何でも自力でなってやろうじゃないか! その為の第一歩はもう決めている」
進一郎はくるりと響香の方へ振り向き、右手を差し出す。
「僕が結婚相手に選ぶのは君だ、響香ちゃん。僕と一緒にこんなふざけた父親達をぎゃふんと言わせてやらないか?」
「進一郎くん……」
「ダメかな?」
「ううん、嬉しい。私からもお願いします」
そう言って進一郎の手を取る響香。15センチの距離がゼロ距離に変わった瞬間。
こうして二人は積年の誤解を払拭し、結ばれるのだった。
しかしどちらにしろ、父親たちの姦計にまんまと嵌ったことは変わらない。二人の父親達もガッチリと握手を交わすのだった。
おしまい
どうしてこうなった!? 風見祐輝 @Y_kazami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます