第7話 要求
風呂も入り終え、下着関係は洗濯中なのでバスタオルを巻いたまま部屋へと戻る二人。
「なっ!!」
「なに??」
部屋に戻ると部屋の壁の一部に、大きなモニターらしきものが嵌め込まれていた。
「な、なんだこれは? い、いつの間に……」
部屋を調べた時は、細部まで調べたがそんなモニターが壁に埋め込まれているなど気付きもしなかった。
どうやら誘拐犯は、監視カメラで逐一自分達を監視し、二人が風呂に入っているのを見計らってモニターの設置を完了したらしい。若しくは最初からそう細工されていたのかもしれない。
「どういうこと?」
「わ、わからん……」
二人は呆然とモニターの前に立っていると、パッとモニター画面に映像が映し出された。
『やあやあごきげんよう。湯加減はいかがでしたか? お二人仲良くお風呂など、なんと羨ましいことか。あははははっ!』
「「……」」
ダックボイスのような
モニター画面には真っ黒な服装、黒い布を顔に巻き、いかにもテロリストといったような人物が、映し出されていた。
『さて、我々の要求は残念ながら日本政府にも花菱にも受け入れを渋られている。よってこれから実力行使という訳だよ。人質である君たちの行動如何によっては、多くの人達が救われるかもしれないね~あ~ははははははっ!』
「な! 何が目的なんだ!!」
『人質にそんなこと話しても無駄だよ。どうせ権力も何もないただの人質なんだからさ』
「な、なんなのよ! 私達に何をしろって言うのよ!!」
『あーはははははっ! 元気のいいお嬢さんだ。そうでなくちゃあやり甲斐がない』
まるでふざけた様子の誘拐犯に、二人は辟易とした。
『さあー先ずはこれを見たまえ!』
その発声と共に画面が切り替わる。
そこには公用車に乗り込もうとしている内閣総理大臣の姿があった。進一郎の父親である。
『これから君たち二人にはゲームをしてもらう。そのゲームがクリア出来たら彼は死なずに済む。じゃーん! これなんだか分かる?』
画面が二画面に分割し、一方は総理の乗った公用車が、もう一方には何かのスイッチを握り締めた誘拐犯の姿が映し出されている。
「くっ! 爆弾か……」
『御名答~! 君は賢いねぇ~、このスイッチを押すと、ボオオオオン! だよ? ボオオオオン! ちなみに爆発物検査では見つからないような爆発物を使っているからね、検知はされていないよ』
「な、なんて酷いことを……」
響香は誘拐犯の残忍さに瞳を逸らす。
『お~お~、お嬢ちゃんは優しいねぇ~、こんなクズ総理を助けたいんだ? 君達の命より国を優先するような総理だよ? うんうん、でもそうでなくちゃ面白くない』
「そんなことより、僕たちはいったい何をすればいいんだ!」
『そうだね、じゃあ早速始めようか!』
誘拐犯は楽し気にそう言い放つ。
『じゃじゃーん! 王様ゲーム! パフパフどんどんどん! そこの札をどちらか好きな方を取りなさい』
「「……」」
王様ゲームときやがった。
二人はそんなふざけたゲームに呆然とする。モニターの壁の前にはいつの間にか伏せられた札が二枚置かれていた。二人は渋々それを引く。
『王様だぁ~れだ! わあー僕だあぁ~!!』
「ふざけんな! 最初から平民確定かよ!!」
『あははははっ! 元気がいいねぇ~』
そんな出来レースでいいのか? 王様ゲームとは本来そんな趣旨じゃないだろ?
そう思うが誘拐犯が自分達の命と他の人達の命を握っているのは間違いないのだ。ここは言うことを聞かなければならない。ちなみに一番を引いたのは響香、二番は進一郎だった。
とはいえ、平民二人に対して命令を出す王様なんて、もう罰ゲームにすらならないじゃないか。平民一番二番はそう思うのだった。
『では王様の命令はこれだぁ~! 一番が、二番に熱~いキッスをする! どうどう? あ、ちなみにほっぺとかおでこは駄目よ? マウスツーマウスだからねっ! それも十秒間の熱いやつねっ』
「「……」」
などと、二人が恥ずかしくなるような行為を命令するのだった。
その後も色々とゲームを押し付けられ、あんなことやこんなことを恥も外聞もなくこなし、それを尽くクリアしてゆく二人。
そして、
『はあ~堪能したよ。うん、もう十分だ。今回は君達に免じてこのスイッチは押さないことにする』
誘拐犯はそういってゲームの終了を宣言した。
『だが僕達も仕事でね。要求が通るまでは帰れないんだよ。君達には悪いけど交渉材料として最後の手を使わせてもらうね』
「な、何をするんだ?」
『君たち二人の命にタイムリミットを設けるのさ』
「えっ?」
響香はその言葉に腰を引き、進一郎の腕にしがみつく。
「ど、どういうことだ!?」
『今までのゲームは余興さ。総理や花菱の社長がいなくなってしまえば要求も通らなくなるからね。ということで、君達の命はあと24時間。その間に要求が受け入れられたら、この部屋に仕掛けられた爆発物は解除する』
「そうでなければ……」
『いわずもがなさ。ドッカーン! と、大爆発で確実に死ねるよ。あははははっ!』
「「……」」
どこまでが本気で、どこまでがふざけているのか分からない誘拐犯の言葉。
だが、この状況を切り抜けられるだけの何かを二人は何ひとつとして持ち合わせていないのだ。
『では、残りの24時間は監視カメラも切っておくからね。最期にいちゃつくでも何でも自由にしなよ。そのくらいの温情は掛けてやるさ』
「ふ、ふざけるなぁ!!」
『あははははっ、元気がいいねぇ~その元気もいつまで持つかな? では、君達のお父様方が要求を呑んでくれることを、神にでも祈りを捧げながら過ごしなよ。じゃあね~』
プツン、とモニターの映像が一時途切れ、次に切り替わりると、そこには24時間のカウントダウンの数字が映し出された。23:59:45 と、一秒単毎にカウントダウンする数字は、進一郎と響香の寿命の残り時間そのものなのである。
「「……」」
しばしの間二人は、無言でその数字を見詰めることしかできなかった。
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