伝えたいこと

月夜 東海

伝えたいこと

0.


今日は、席替え。月に一度のお楽しみだ。

入学してから約2ヶ月。友達が増え、高校生活をとても満喫している。



「じゃあ、出席番号順にくじ引けよ〜」



担任の合図のもと、席決めのくじ引きが始まる。今の席は、四方八方男子だ。そろそろ女子、来てください。お願いします。



「お前、何番?」



俺の隣の席の、乙波おとは けいが話しかけてきた。



「21番」



「よかったな、勇人!周り、女子いるぞ!」



「まじかよ!?……しゃぁぁあ!!」



古坂こさか 勇人ゆうと、これが俺の名前。

席が決まった今、新たな物語がスタートした────。



1.


席替えをした当日には移動せず、次の日に変えた席へ移動するのがこのクラスのルール。

そして今日、席が変わる日なのだ。



「よろしくなっ!」



「おう!」



とりあえず、周りの男子に挨拶。

左隣は女の子で、右隣は超仲のいい友達。秋本あきもと たくだ。



「拓、席隣になれたな!!」



「それね!嬉しいわ〜」



こいつは、面白いことをいってよく人を笑わせてくれる。言わば、クラスのムードメーカー的存在だ。


残るは1人。隣の女の子に挨拶をすれば終了だ。



「よろしくな!」



「うん、よろしくね!」



この子は、藤咲ふじさき あおい。全く話したことがなく、もしかしたらこの会話が初めてかもしれない。

女子と話すのが照れくさかったからなのか、あまり顔をみて挨拶することが出来なかった。



そして、1時間目のチャイムがなる──。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


この席は黒板から見て左側であり、板書をノートにとるのに左を向かなくてはいけない。

何故か、ノートをとる度に、心臓の鼓動を速めていた。



「あのさ、勇人くん。この問題の解き方わかる?」



「わっ!!」



突然話しかけられたので、不覚にも驚いてしまった……。恥ずかしい恥ずかしい。



「大丈夫?」



「あー、大丈夫だ!……その問題?それは、公式に当てはめるために2をつくれば───」



挽回、できたかな……。

塾に通っているので、ある程度はわかる。ましてや数学は、俺の得意分野だ。

そして今、ちゃんと蒼の顔を見ることができた。髪型はショートで、かわいらしい顔をしている。

そして、心臓の鼓動を速めている理由。それは、一目惚れをしてしまったのだ。





───放課後。今日は、拓と遊ぶ約束をしている。何か、拓が話したいことがあるようだ。


俺の家にて。



「拓、席替えいい席になれたよな〜!!」



「だよなっ!俺ら、隣だもんな!」



奇跡的に、隣になれた。

数学の先生が言っていたが、3回連続で席が隣になれたら運命らしい。まぁ、クラスの人数にもよるが。



「で、話ってなんだ?」



「あー。特に重要ってことも無いけどさ、俺、好きな人できたんだ」



拓が、好きな人?いつもおちゃらけているので、そんな気はサラサラないように思えたが。



「まじ?だれだれ?」



子どものように訊く俺。すると、



「お前の左隣の席の人だよっ」



「えっ?」



俺の、左隣の席の人?それって……



「蒼?」



「あぁ。俺、結構前から好きだったんだ」



絶句。俺と好きな人が、被ってしまった。どこまで仲良しなんだよ俺ら……。



「いつから好きだったんだ?」



「5月に、宿泊研修あったじゃん?その時から」



通っている学校には、五月のはじめにクラスメートの親睦を深めるため、宿泊研修があるのだ。

って言うか、結構前から好きだったんだな。



「そっか〜、いいねっ」



「どうしたどうした?暗いぞ?お前も、好きな人できたのか?」



やばい、表情に出てた。こんな所で、『俺も蒼のことが好きなんだ』なんて言えないよな、さすがに……。



「いやいや、ちょっと考え事してただけだ。応援してるからな?」



なんてことを、言ってしまった。

恋敵なのに、応援をしてしまった。取り返しのつかないことになるかもしれないことを、考えもせずに───。





3,


今日の7時間目は、HR。俺の学校は、週に2回7時間授業がある。そして今日のHRの内容は、学校祭についてだ。



「部門わけしていくよー」



学校祭委員がしきる。そこで挙げられた部門は、【衣装係・アトラクション係・小道具係・クラス発表係・ステンドグラス係】などだ。


仲良し三人組の、俺と拓と鏡は、クラス発表係をやろうと決めていた。



「では、クラス発表係をやりたい人〜」



すかさず俺らは、手を挙げた。その時は、手を挙げることに夢中だったので気づかなかったが、黒板に書かれた名前を見ると《藤咲・白鳥》と書いてあった。

右隣を見ると、拓がにんまりしていた。



「お前、その顔気持ちわりぃぞ……」



「あは?ごめんごめんふふっ」



気持ちわりぃ……。こいつは、こんなやつだ。だが、それもまた面白いのだ。どこか、本気で気持ちわるいと思えなく面白さが込み上げてくる。不思議なやつだ。


そして、全ての部門わけが終わった後、蒼が俺の方を見て



「頑張ろーね!」



と、一声。俺の目を見て言ったような気がするが、これは俺が意識していたからなのかも知れない。すると、



「おう、よろすくな!」



「ちょっと訛ってるぞ……」



蒼と俺は、大爆笑。一緒に笑い合うって、すげー楽しいな。もっと好きになっちゃう……。


そんなこんなで、クラス発表の集まりは来週から。それまでは、テーマ決めだったり、各学年のクラス発表責任者が集まるクラス発表会議だったり……。本格的に始動するのは、まだ先になるみたいだ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


そして、1週間が経った今日。

放課後に、1回目のクラス発表の活動がある。

今日から毎回、夜7時まで活動ができる。


──30分前の出来事。



「勇人、俺今日部活あるから、クラ発行くの6時くらいになるわ」



「俺も。ごめんなっ」



拓に続いて、鏡。2人とも部活が忙しいみたいだ。

拓は野球部、鏡はテニス部に所属している。

俺は、習い事でダンスをやっている。余談だが、ジャンルはHIPHOPだ。なので、俺以外は部活動があるというわけだ……。


クラス発表係は5人。そのうち、男子が3人で女子が2人。今日は男子が2人遅れてくるということで、俺1人のみとなってしまった……。



「じゃあ、クラス発表の話し合い始めよっか!」



と、学級委員長の白鳥しらとり 柚羽ゆずはが言う。



「でも、男子2人ともいないよ?もう少し後になってから話し合い始めよ!」



と、蒼。すると、走る音が廊下から聞こえてきて……。



「すいません、生徒会です!柚羽いますか?……あ、いた!!もしかして、今日、生徒会の会議あるの忘れちゃってた?」



「あー!!会議!先生に、生徒会の会議を優先しなさいって言われてたの、忘れてた!ごめんね、ちょっと行ってくるね!!」



といって、すごい早さで去っていった。

取り残されたのは、俺と蒼で……。



「2人だけになっちゃったな……」



「そうだね〜……」



「「…………」」



沈黙が……。あ。これって、物凄くいいシチュエーションだよな?拓と俺、好きな人が同じ。ならば、抜け駆けしてやる!



「蒼って、吹奏楽部だよね?」



「うん!そだよ!」



「いつも昼休み練習してて、頑張ってるよね!」



「そうなんだよ〜。もう、疲れちゃった……」



「お疲れ様!」



と、たわいもない会話を長々としていた。

これって、抜け駆けの意味を成してるのか?まぁ、楽しいからいいっか。



「もうそろそろ、拓と鏡が来ると思うよ!」



6時ちょっと前。楽しい時間も、終わってしまうみたいだ。もっと、2人っきりで話したかったなぁ。



「よっす!!」



「遅れました」



拓と、鏡の温度差……。鏡って、人見知りなだけで俺らと遊んでる時すっげーうるさいんだよな……。それもまた、いい所だよな。



「すいませんーーー!!私も、遅れました!!」



少し遅れて登場したのが、柚羽だった。



「じゃあ、これから話し合いを始めまーす!テーマは恋愛になったので、どうします?」



「結局恋愛になったのか!!ドキドキすっぞ!?」



「恋愛……恋、愛……?」



拓に続き、鏡。どうしたんだ、鏡?

カタコトで恋愛って。



「そうなの。ファンタジーとかパロディーとか、他のクラスと丸かぶりしちゃって……恋愛になっちゃった」



逆に、ありがちな恋愛が被らなかったのか!!不思議だなぁ……。



「どんなのやりたい?私は、ロミオとジュリエットをやりたいな〜!!」



「ドキドキするよね、あれ♡」



「うんうん!そしてさ、───」



柚羽と蒼は、二人の世界に入ってしまった。

こっちでは、



「ちょっと勇人、ロミオ役やってくれよ」



と、拓。俺は恥ずかしかったので、



「やだよ〜」



「そこをなんとか!」



「まぁいいけど……」



言わされた感満載だが。これで満足か、拓。

そして拓は、あの名シーンをやりたいらしい。あの名シーンって、



「あぁ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの?」



「なぁ、拓。俺、なんて返したらいいんだ?そのセリフしか知らないぞ俺は……」



「俺もだ!!参ったかー!!」



何がだよ。ほんっと、楽しそうなやつだ。


そんなこんなで、今日の話し合いは終了した。




4,



練習期間は、3週間。土日も練習できるので、21日間あることになる。今日は、ちょうど1週間が経った7日目。

たまたま廊下であった柚羽と、一緒に向かう途中である。



「勇人くん、知ってる?」



知らないぞ、俺は何も。てか怖いな、こういう話って。



「鏡くん、好きな人いるっていう噂」



「鏡に?そんな噂が流れてるのか?」



「うん」



鏡もまた、拓と同じで好きな人はいないような人だ。クールで人見知りだが、どこか抜けている鏡。そんな彼に、好きな人、か。



「その人って、誰か教えてくれるか?」



「ぜーーったいに、ナイショだよ?いい?」



あざといが、かわいい。それ、反則だろ。



「あぁ」



「じゃあ、いうね。その人は───」



「その人は?」



「うんとね────」



焦らすなぁ。早く言ってくれ……。



「蒼ちゃんだよっ!」



「えぇー!?蒼?」



「うん!」



まじかよ!?聞き間違えじゃないよな?

また恋敵が増えるのかよ、さらに仲のいい3人組の1人!!なぁ、どうなってるんだよ?……。



「それって、本当か?」



「うん、多分本当だよ。池内くんが、LINEで聞いたらそうだって」



池内くんは、クラス1の正直者だ。

だが、その正直さが裏目に出ることもあり、その結果誰かの好きな人情報が出回ったのだろう。



「それにしても、あの池内がなんで鏡にあんなこと聞いたんだろうな?」



「それはね、ただ単に罰ゲームでしたみたいだよっ」



罰ゲーム……。それで答える鏡も鏡だよな……。



「今日、顔合わせるのちょっと気まづいな」



「なんで?もしかして」



いきなり立ち止まり、俺の顔を覗き込む柚羽。もしかして、なんだ?



「君、蒼のこと好きでしょ?」



「なんで!!なんでわかったんだ!!」



「わかりやすいね〜!女の勘よ、女の勘!それに否定しないなんて、素直ね!好き、そういうタイプ」



最後の言葉だけ、声のトーンが本気だったのは気のせいだろうか────。


話は、練習場所に着くと同時に終わった。




「今日から、演技にはいりまーす!」



やることは、ロミオとジュリエットに決定しオリジナル脚本も書き終えた。

なので、今日からクラスの人も交えての練習になる。

まだ、役割分担は決まっていないので、これからみんなで話し合うことになる。



「まずは、役割分担!役は、全部で15あるよー。みんな、何がいい?」



役は沢山あるが、トリはロミオとジュリエット。なのだが……。



「俺、木の役やりたい」



先手を切ったのは、鏡だった。

役の選択肢にない、木の役。どうしたお前……?



「木の役なんて、ないよ!ふざけないでよねっ」



やっぱ、どこかあざといんだよな、委員長。でも、それがかわいいというか……。



「そこ、なんかお似合いじゃね?」

「それ!!いいねぇ」

「丁度いいな!賛成〜!」



1人が言うと、沢山の人がざわざわしてしまった。そして、その人たちはみんな俺の方に視線を集めている。まさか……。



「俺と、拓!?」



教室で行っているため、いつもの席についている。ってことは、俺と拓でホモ的な何かをやれってのか???



「違う違う、お前と蒼だよっ!!」



「俺と、蒼……!?」



聞き間違えだろうか?

そう出なかったとしても、どうしてこうなった?お似合い?席が隣だという理由だけで?



「だってー、なんか2人とも幸せな顔してるぞ?話してる時」


「それそれ!」


「私もそれ思った!」



俺、蒼と話す時表情に出ていたらしいなこの反応は……。“2人とも”ってことは……そんなこと、ないよな〜。



「じゃあ、この2人で決定で良いですかー?」



《賛成〜!!》



決まってしまった。ロミオとジュリエット。

凄く喜びたい。喜びたいが、今はまだ喜べない。ここで感情をあらわになんてしたら、『やっぱそうだったんだ〜』とか言われそうだ。うん。後で泣くほど喜ぶことにしよう。


それぞれの配役も済み、明日の放課後から練習がスタートするみたいだ。思ったより時間がかかったため、今日の演技練習はなしのようだ。

今日は休日ということもあって、もう解散。

帰って喜んでから昼寝しよっと。



───帰り道。いつもは夕暮れの中帰宅するのだが、今はまだ3時くらいだ。お散歩がてら、遠回りして帰ろうかな。


ん?あの公園のベンチに座ってる人、なんだか見覚えがあるような無いような……、遠くてあまり視認できなかった。

近づいてみると、



「……蒼!?」



なんと、その正体は蒼だった。予想外にも程があるぜ……。

大声を出してしまったので、引き返せるわけもなく。というより、引き返したくないのだが。ここは、きっと神が与えしチャンスなんだ。うん、きっとそうだ。



「勇人……くん?どうしたの?大声で」



あ〜、突っ込まれた。

恥ずかしいから言わないで……。



「ベンチに座ってる人、なんか見覚えあるな?って思って、近づいたら蒼だったんだよ〜。ちょっと予想外で、驚いちまった…」



「そーなんだ!予想外って……」



苦笑い。好きな人に苦笑いをされると、少し悲しい。いや、かなり悲しい。



「それより、どうしたんだ?こんな所で」



いつもの俺の帰宅ルートではない。なら、この質問はおかしかったか……?



「家(うち)の近所の公園なんだっ。何か考え事があったり、悩み事があったりストレスだったり……。そんな時、ここにきたら落ち着くんだ。私がちっちゃい時から、ここによく来るよ」



「そうかのか、確かにここ、落ち着くな」



沢山の木が風に揺れて、サーッと心地よい音を立てる。噴水の周りには、沢山の色とりどりの花。無邪気に小学生くらいの子どもは遊んでおり、何故だか癒されるこの公園。



「うん!ここだけは、友達にも伝えてないんだ」



「そうなのか?でも、家の近所なら分かるんじゃないのか?」



「近所だけど、道路を跨いだ先の、団地の奥の一軒家なんだ。だから、お家からは見えない。団地が、邪魔をしているからね」



そうなのか。本当だ、団地の奥に家が沢山並んでいる。



「ここは、2人の秘密ね?誰にも教えちゃ、ダメだよ?」



俺にも、本当は知られたくなかったよな?

ごめんな……。



「おうっ。内緒な!」



「うん!!」



そう言って、少し雑談をした後家に帰ったのだ。




5,


───あれから1週間。日数で言うと、14日目だ。今日は、初めてのステージ練習の日。

ようやく台本を覚え、軽い動作を付けての練習だ。



「……ああ、ロミオ。なぜ私たちの両親は憎み合い、争うのでしょう───」



すっげー緊張する。面と向かって、好きな人と演技をする。そして、その演技はロミオとジュリエットという……。なんて言ったらいいのか。心臓がバクバクしすぎて、倒れてしまいそうなくらいだ。

そして、演技をしている蒼が、とてつもなくかわいい。



「勇人くん……?」



「あ、あぁ、すまん!!……いけない、ジュリエット。もう、お別れの───」



この状況は、何なんだ?どうして、こうなった?今、俺は夢でも見ているのか?

このままじゃ……ダメだよな。練習に一つも集中が出来ない。うん。決めた。



練習が終わった後、俺のところに来たのは鏡と拓だった。



「お前、大丈夫か?今日の練習、ずっとぼーっとしてたけどよっ」



「俺の木の役と、かわってやろーか?」



「それだけはゴメンだ……」



鏡、結局木の役やるのかよ……。

噂にしか聞いたことないぞ、木の役なんて。



「俺、お前らに言いたいことがあるんだ」



「なんだ?」



「そんなに、木の役やりたいのか?」



いやいや、もう木から離れてくれ……。



「俺には、好きな人がいる。初めて俺が好きになった人だ。その子は、話している時とても楽しそうな顔をして、いつも幸せそうな顔をしている。そんなあの子に、恋をした────」



楽しそうな顔、幸せそうな顔とは俺の勘違いかもしれないが、俺の目に映る蒼はそんな表情だ。



「で、相手は誰なんだ?」



「拓、聞いて驚くなよ。そして、鏡。お前には事前に謝っておく。すまんな」



好きな人が同じということは、とても辛いことだ。ましてや、仲のいい三人組のうちの2人。だから、誤っておく。ごめん。



「なんで、謝る?相手は?」



「相手は……」



死ぬほど、覚悟をした。

伝えなければ今後支障をきたす。練習に実がはいるはずもなく、そしていつまでも友情関係を気にしてここから一つも進むことが出来なくなる。そんなくらいなら、俺は──。



「蒼。俺の好きな人は、蒼だ」



言った。言ってやったぞ、俺は。

今、死ぬほど胸が苦しい。二人の顔を見ることが、出来ないくらい。



「俺と、好きな人が同じ……ってことか、勇人。だから、さっき……」



「あぁ、そうだ」



最初に反応してくれたのは、鏡。本当に、すまんな。



「お前……それって、本当なのか?」



なぜか、深刻な顔をして俺を見つめる拓。



「本当だ。なんかあったのか?」



「あのよー……俺たちって、どこまで仲良しなんだろーな!!!あはははっ!!」



いきなり、笑い出す拓。しかし、その目には涙が浮かんでいるようにも見える。



「………拓?」



「俺もーー、蒼のことが好きなんだよーーー!!!!!!」



今まで溜めていたものを吐き出すように、拓は叫ぶ。そして、拓の口から出た言葉は、予想外だった。



「拓、お前も、蒼のこと、好きなのか……?」



「あー、好きだよ!!俺たちって、ちょーーー仲いいなぁ!!」



そうだな。仲良し三人組の、3人とも好きな人が同じという。趣味から気が合う所まで、全て仲がいいんだよ、この3人組は。



「鏡、勇人。誰が蒼と結ばれたって、あるいは誰も結ばれなくたって。この3人組、いつまでも仲良くしような?これだけは、約束だぞ?守れないなら、それこそみんなのことを嫌うぞ、俺は!!!」



「そ、そうだな!!賛成だ!!鏡も、いいよな?」



「あぁ、いいよ。一生仲良くしてくれるだけで、俺は幸せだ」



鏡は、いつまでもクールだよな。俺と拓、2人が取り乱していても、平然としている。立派だなぁ、見習わなくちゃ。


今日、言ってよかったな。なんだか、もっと仲良くなれた気がする。いい友達をもった。これからも、いつまでも仲良くやっていけそうだ。よろしくな────。




8,


本番三日前。今日は、総仕上げの日だ。

あの事もあって、演技に実が入るようになった。



「よーし、今日はここまでかな?大分良くなったな!ステージ練習初日はどうなる事やら……って思ったが」



うるせーよ、拓……。にやにやしながら俺の方見やがって。

すると、俺の隣に座っていた鏡が突然立ち上がり───



「俺、伝えたいことがある」



「どうした?やっぱ、木の役辞めたいとか?」



だから、もう木の役のことでいじるな、そして話題にするなよ。そろそろ飽きたぞ……。



「違う。それは気に入っている」



なんだお前……お前の、一つだけ理解出来ないところだよな。面白いやつだ。



「じゃあ、なんだ?」



「………」



普段、顔にあまり表さないのだが、この時の鏡は顔を紅潮させていた。まさか……。



「蒼。突然だが俺、お前のこと好きだ。付き合ってくれないか……?」



いきなり蒼の方へ行き、膝をついて手を差し伸べる鏡。そのクールさは、俺も惚れるほどだった。



「えっ……////」



蒼も顔を紅潮させ、とても慌ただしい表情をしていた。

鏡に、先を越されてしまった。油断していた。もっと早く、告白をしていれば。



「ご、ごめんなさい!!私、好きな人がいるの……ごめんなさいっ!!!!」



そう言って蒼は、飛び出してどこかへ行ってしまった。



「け、鏡……?」



静かに差し伸べていた手を降ろした鏡は、涙を流していた。



「か、解散ー!!みんな、また明日の練習で会おうなっ!!」



拓が気を利かせたのか、この場を解散させた。

そして、人が居なくなった時。



「……拓、勇人。俺、振られちゃったぞ、ははっ……」



とても落ち込んでいるようだ。

いつもはこんな弱気を見せることはなく、冷静な物言いの鏡。だが今は、違った。



「まぁ、良かったんじゃないか?想い、伝えられたじゃん!伝えられない俺なんかよりも、ずっとかっこいいぜ!!」



「そうだよ、鏡!!どこまでもクールなやつめー!」



俺に続き、拓。

励ましの言葉を、と思ったが。



「ごめん、拓、勇人。俺、帰るわ」



強引に涙を裾で拭った鏡は、足早にこの場を去ってしまった───。



「拓、帰ろっか」



「あ、あぁ。そうだな」



俺と拓の家は真逆のため、学校を出るとすぐ別れることになる。



「じゃーな、拓!」



「おうっ!」



それにしても、勇気あるよな。

人前で、あんなにも堂々と告白をするなんて。俺も、絶対告白する。ライバルは1人減った。絶対、成功させる……!!



「ゆーうとくんっ!」



「柚羽っ!?」



後ろから現れたのは、柚羽だった。



「もう、みんな帰ったんじゃないのか?生徒会ってこんなに忙しいのか?」



「あ、ま、まぁね!!生徒会ね〜!うん、忙しかった、よ……!!」



棒読み。どうしたんだ?



「もう暗いし、一緒に帰るか」



「うんっ!!」



だからその、可愛いんだよイチイチ……。



「今日の鏡くん、すごかったね」



「あぁ。勇気あるぜ、あいつ」



本当に、凄いよな。尊敬するぜっ。



「勇人……くん、私ねっ────」



「柚羽、聞いてくれ。あ、ごめん!先に話していいぞ」



話が被ってしまった。あるあるだよな。



「いや、いいの。先に話して!」



「そうか?なら、話すぞ」



どこか、悲しそうな表情。今日の柚羽、どこか違うような……。



「俺、学校祭初日に告白しようと思ってる」



「初日って、ステージ発表の日に?」



「あぁ」



ライバルであり親友である3人組には、とてもじゃなく相談など出来ない。ちょうどいいから、柚羽に相談することにした。



「それで……どう、告白したらいいのかな?」



「そんなの簡単よっ!今回の演劇はロミオとジュリエットよ?そんなの、劇中の一番盛り上がる所で告白するに決まっているじゃない!!」



そういうものなのか?それって……



「超絶恥ずかしいやつじゃん!!!」



「あれー?さっき、鏡くんのこと勇気あるだのなんだのって言ってなかったっけ?勇人くんもしかして、勇気のカケラもないの……?」



バカにするような、蔑んだ目で見る柚羽。今回ばかりは、可愛くなかった。



「柚羽、それは違う。俺、今日の鏡をみて思ったことがある。こんなんじゃダメだって。好きな人に、好きだって伝えなくちゃって。今まで、弱気になって伝えようか伝えないか迷っていた時もあった。でも、結果だけじゃないよね。本当に好きなら、それを伝えられる努力をしなきゃ。そして、実行に移す勇気がなくちゃ」



そう、今日の鏡のおかげで沢山の勇気が湧いてきた。たとえ結ばれなくたって、それを伝える勇気がなくちゃ。



「そっか。………が、頑張ってね、勇人くん!!応援してる!じゃあね!!」



「あ、待ってくれ────」



柚羽は、言葉を言い捨てるようにこの場を去っていった。どこか泣いているようにも見えた。やっぱり、今日の柚羽、どこかおかしいよな。

でも、柚羽も応援してくれるという事だ。

ならば、勇気を出して頑張るしかないよな!!!やってやる、告白!!!





7,


そして、本番当日。学校祭は全部で3日間。

初日の今日はステージ発表の日。

今日、俺は蒼に告白するつもりだ。だが、この前柚羽と話したこと以外ノープランという……。

朝早くからステージの設営があったり、最終の確認があったりと色々忙しい。


体育館に忘れ物をしたので、取りに行く最中だ。



「あれー、勇人くん!どこ行くの?」



途中でばったり会ったのは、柚羽だった。



「おー、柚羽!この前、どうして去ってったんだ?」



この前の不思議な柚羽が気になる。どうしたんだろう?



「こ、この前……!!あれは、その、!!」



「言いづらかったら、言わなくてもいいぞ」



「勇人くんって、優しいね。ねぇ、言いたいことがあるんだけど」



なんだろう?言いたいことって。



「あの……勇人くんっ」



「は、はいっ!」



何故か敬語になってしまった。この、緊張感。



「勇人くんって、こんな性格の子にも優しく、楽しそうに接してくれるんだもんね?そりゃあ、惚れちゃうよ……」



「……えっ」



「好きな人が出来たの。柚羽ね、この前の勇人くんの話聞いて決心したの。柚羽も、好きだって気持ち伝えようって。結果だけじゃ、ないんだよね?伝えることに、意味があるんだよね?」



そうだな。伝えるか伝えないかで、自分の中の何かが変わる。結果がどうであれ。



「柚羽も、好きな人に気持ち、伝えようって思った。だから、いうね。───勇人くん。勇人くんのことが、好きです。付き合って下さいっ」



柚羽は、いつも愉快でどこかあざとさが可愛かった。そんな柚羽が、真剣な眼差しで気持ちを伝えてくれた。嬉しい。嬉しいけど、ごめん。



「柚羽。ごめん。俺、やっぱ蒼が好きだ」



「だ、だよね!!!私、全力で応援する!だから………だから、今日の本番、頑張ってね……」



すると、柚羽は俺に抱きついてきて泣き出してしまった。



「柚羽……?」



「この、バカ………」



と言って泣き続ける柚羽。どうしたらいいんだろう。とりあえず、慰めよう。



「柚羽?俺がこの前言った通りに出来たのは、すごい事だ。俺だってまだ実行してないんだ」



勇気を出そう、出そうと思ってもなかなか出せないものだ。それを、頑張って出した柚羽。本当に、素晴らしいよ。



「本当だね。伝えるか伝えないかで、大きく違うね……このまま伝えないで勇人くんが誰かと結ばれたりしたら、柚羽、もう立ち直れなかったかもしれない………」



伝えることに意味がある。その理由を、柚羽は分かったんだ。合っているよね、俺の考え。伝えることに意味があるんだ。



「勇人くん、ごめんね、迷惑かけちゃって。柚羽、もう戻るね。頑張ってね、勇人くん……頑張ってよね!!」



「おう!頑張るぜっ!」



悲しい表情をしていた柚羽が、最後にはいつもの調子を取り戻してあざと可愛い柚羽に戻ってくれた。頑張るぜ、俺!!ありがとな!





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



俺たちの発表は3番目で、今は2番目が発表している途中だ。

ステージ裏でスタンバイしている俺のもとにやって来たのは……



「……拓!?」



大泣きしながら、拓がやって来たのだ。

どうしたんだよお前……。



「ゆーーうーーとーー、さっき蒼に振られちまった……あぁぁぁっ、………」



「そ、そうなのか?」



拓、お前も勇気を出したのか。周りの人はどんどん勇気を出していく中、自分だけが置いてかれているような気がした───。



「勇人、後はお前だけだ。俺ら2人の想いも込めて、勇気出して頑張れよ!?失敗厳禁だからな?……失敗した時は、3人で笑い合おうぜ!!また、次があるってな!」



「拓、すっげー嬉しい。鼻水垂れながら話さなければ、もっと嬉しいぞ俺」



ステージ裏なので、暗くてよく見えないが鼻水がブラーンっとしているのはよく見える。見えなくていいのだが……。



「ほ、ほら!!俺らの番だっ!小道具出したりするぞっ!俺も鏡も、お前のこと応援してるからなっ!!」



───そう言って始まった、本番。

これまで色々あったが、鏡にも、拓にも、さらに柚羽にも応援されているのでへこたれている訳にはいかない。劇を成功させて、告白も成功させる。それが今望むことだ───。


そして、出番。

一番盛り上がるところであり、そして、ここしかないと思った。



「……愛しのジュリエット。僕は、君と僕とを隔てる全てが憎い」



どのセリフのあとに言おうか。未だに悩んでいる。やっぱり、プラン立てておいた方が良かったよな……。



「なぜ神は、僕達にこのような試練を与えるのだろう」



「あぁ、なぜ私たちの両親は憎み合い、争うのでしょう。本当なら、きっと私たちのように手を取り合い、想いあうことも出来るというのに───」



緊張しすぎて、セリフが飛びそうだ。あんなに練習したのに、全てを台無しにしてしまう。頑張らなくては……。



「私の、ロミオ様を想う気持ちの半分でも理解してもらえたなら、きっと……」



よし、決めた。言おう、うん。

生きてきた中で一番胸がバクバクする。死んでしまいそうなくらい。でも、俺には伝えなくてはならない事がある。応援、しててくれるんだよな?俺、頑張るよ。



《…………》



「勇人、くん……?」



「蒼っ!!」



「っ!!ど、どうしたの?」



「俺、蒼のことが好きだ。いつも隣の席で、話している時の楽しそうな笑顔に惚れた。幸せそうな顔に惚れた。演技している時の君に、惚れた。蒼と話していると、楽しいんだよな」



「え、えぇー!?」



やっと、伝えられた。今まで思っていた気持ち、溜め込んでいた気持ちを全て。

後は、答えを聞くだけ。



「………蒼。好きだ!付き合ってくれっ」



怖い、結果を聞くのが怖い。だけど伝えられた。気持ちを伝えられたんだ、俺。

勇気出せたんだな。ありがとな、応援してくれて。



「……勇人くん。私も実は、勇人くんのことが……好き。だ、だから、よろしくお願いしますっ……」



想いが叶った瞬間。ハッキリと聞き取れた、蒼からの『好き』。生きてて良かった。



「ほ、本当か……?」



「うんっ!とっても嬉しい!」



すると、観客やステージ裏から歓喜の声や拍手が────



「おめでとうー!」「お似合いだと思ってたんだ!!」「やっぱりくっついたか!」「ひゅーひゅー!」


「勇人!!おめでとう!!」


「良くやったなー偉いぞー」



拓に鏡まで。鏡、クールというよりかは棒読みだぞ……。すまんな……。



「な、なんだか恥ずかしくなってきたな……」



「そ、そうだね………ゆ、勇人くん……」



「あ、蒼!!」



蒼は、倒れ込んでしまった。きっと、耐えられなかったんだろうな。というより、すぐに運ばなくちゃ!!



「蒼、今すぐ保健室に連れていくからな!」



《こうして、ロミオとジュリエットは保健室という名のお城で楽しく過ごしたとさ おしまいおしまい───》


パチパチパチパチ───。



おい、拓。勝手なナレーションで終わらせやがって……後で、説教だからな?


こうして、劇は幕を閉じたのであった。



8,


「蒼!!大丈夫か……?」



やっと目を覚ました蒼。あの状況で、倒れるのもしょうがないよな。俺も倒れるくらいだった……。



「ん、んん……。ゆ、勇人くん?」



「おぉ!!良かった〜、無事で」



「もしかして、ずっとここにいてくれたの?私、どれくらい倒れてたの?迷惑かけたよね、ごめんなさいっ!!」



「心配すんなっ!居たくてここに居ただけだから!お前の寝顔、可愛かったなぁ」



本当は、4時間か5時間ほど寝込んでいた蒼。

実は、俺も少し寝ちゃったんだよな……。



「ね、寝顔!?もーーー、恥ずかしい!!!勇人くんってばーー!!!」



反応、可愛すぎかよ。



「お腹、空いてないか?もう、立てるか?」



「お腹空いてる!もう立てるよ!」



「おぉ、そうか!きっと今バザーやってると思うから、一緒に食べに行こうぜ?」



今まで緊張とか蒼のこととかで胸いっぱいお腹いっぱいだったが、気づけばお腹がペコペコだった俺。



「うんっ!行こ!!」



そうして、俺と蒼は初めてのデートを楽しんだのであった────。


ライバルであり友人である3人組。みんな仲良く好きな人が同じだった。だが、それにも終止符が打たれた。

ある日、拓が言った言葉。


『鏡、勇人。誰が蒼と結ばれたって、あるいは誰も結ばれなくたって。この3人組、いつまでも仲良くしような?これだけは、約束だぞ?守れないなら、それこそみんなのことを嫌うぞ、俺は!!!』


この言葉がなければ、3人の友情は保たれていなかったのかもしれない。

俺が、蒼のことが好きな事を暴露した時点で友情が終わるかも知れなかったんだ。

だけど、最初からこんなことはなかった。仲良いんだなぁ、俺ら。と、つくづく感じた。


───蒼。俺、お前のこと好きになって本当に良かった。友情関係が深まったのもあるし、俺自身が強くなれた。弱気になっていた自分が、今考えると恥ずかしいほどだ。

これから、よろしくな。一生、誰よりもずっと愛してる───。

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伝えたいこと 月夜 東海 @AQtion

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