I She

六畳のえる

I She

【2013/10/13】


 810 → 620


「ったく、せっかく街まで来たってのに雨かよ」

「午後は止むって言ってたけど、どうかなあ」

「修学旅行の後で金がない人間に、天候は無情だ」

「金がないのはアンタがお土産買いすぎなの」

「早くアーケードまで行こうぜ」

「ちょっと、傘」

「うん?」

「傘、こっちに傾けすぎ」

「あのな、俺だって自分より背の低いヤツに合わせるくらいの優しさはある」

「だったらもっとこっち側に持ってきて! 肩に全部注がれてるから!」



 620→430


「まあ最後のあのオチは悪くなかったよな」

「続編は出なそうだけどね」

「むしろ俺は予告編のあのゾンビSFの方が気になる」

「アタシも」

「あとランチは反省……」

「信じらんない。休みくらい調べといてよ」

「ごめんな」

「そして第1希望がないからといってファストフードになるベンチ層の薄さ」

「控え要員の補強が強く望まれますな」

「次に期待しようかな」

「次回は潔く、お前に任せようかと」

「そこで男見せなくてどうする!」





【2013/12/22】


 2880→1560


「さっすがクリスマス……埼玉でこれって東京はどんだけなんだよ……」

「混んでますなあ」

「おかしい。俺達の住んでるところと同じ日本とは思えん。ほら、100円の野菜無人販売の気配がない」

「あるわけないでしょ」


「で、どこから行くの?」

「ヘッヘッへ、とりあえずイルミネーションを見たい。公園と、駅ビルの中だな」

「こんな時間からやってる?」

「やってるに……ちょっと待って調べる」

「アンタのスマホはただの電話か」


「綺麗!」

「すげえなあ。1つ1つ木にLEDつけてるんだな」

「おかしい。アタシ達の住んでるところと同じ日本とは思えない」

「お前も同じこと言ってんじゃん。なあ、写真撮ろうぜ」

「いいけど。セルカ棒とか持ってきてるの?」

「手伸ばせばなんとかなるだろ。いっくぞー」

「…………何これ」

「げっ! フラッシュしたら全然クリスマス感がない! 目赤くなってるし!」

「誰からもイルミネーションって信じてもらえないやつね」


「フッフッフ、ワタクシ、高校2年生ながら、レストランでコースを予約してしまいました」

「おっ! さすが、デキる男は違うね!」

「イタリアンのファミレスだけどね。でもチーズフォンデュもあるってよ!」



 1560→240


「ありがとな、これ!」

「えっへん、感謝して頂きたい」

「なんで俺が手袋持ってないって知ってんだ?」

「あのね、アンタが手袋してるの見たのなんて小2が最後くらいよ」





【2014/5/10】


 1410→800


「さて、せっかくこんなところまで来たんだからな。俺は洋服を見たい」

「アタシも。夏服がほしい」

「白いワンピースと麦わら帽子ね」

「そんな子は漫画にしか出てこないのっ」

「でもその前に参考書見ようぜ。本屋結構充実してるって」



 800→552


「はいよ。好きだよな、それ系」

「フルーツと炭酸の組み合わせは、つい味見したくなるのよね……アンタのは?」

「コーヒー炭酸…………うん、ダメだな、失敗だ」

「毎年出ては消えてくんだから、理由考えなさいよ……」

「一口ちょうだい」

「コーヒーの口拭いてからにして」



 552→142

「いやあ、もうすぐ1年という記念日に相応しい1日でしたな」

「もうすぐって言うには早くない?」

「11ヶ月と……5日かな」

「すごい、全然記念じゃない」


「やっぱり大学は東京なんだ」

「まあな。まだ赤本売ってなかったけど。戻るつもりだから人生で1回くらいはな。田舎モンは華の東京に憧れるわけです」

「率直でよろしい」

「お前は?」

「ん、教育学部あるし、うちの国立かなあ」

「そっか。まあ東京とは目と鼻の先だな」

「ですな」





【2015/1/3】


 213→23


「バス自在に使えるとか、俺達の田舎スキルも相当なもんだな」

「『中央公園前』ってのが子育て感があっていいわよね」

「聞いた? さっきの。『事務所はボロいが腕は一流』って」

「聞いた! デザイン会社なのに事務所ボロいんかい!」


「何お願いしたんだ?」

「とりあえずはセンターで足切りにならないようにって。アンタは?」

「俺も。でも二次の配点も結構あるからなー。ヤマが当たりますようにって言っときゃ良かった」

「今からヤマ張る気なの」


「うう、さみぃ。手袋が助かるぜ」

「おっ、その手袋センス良いねー! 選んだ人のセンスが良いんだね!」

「へいへい、最高だと思います」



 23→1023→833


「そのブレーキ、直してもらったら? すごい音してる」

「だよな、カゴもちょっと割れてきてるし。でも合格したら新しいの買いたいんだよなー」

「そうそう、『私立行かないからその分』って親を説得するのだ。受かるといいね、お互い」

「いいねじゃなくて受かるんだよ」


「これからどうするの? 家帰るの?」

「んー? そうだな。勉強したいし」

「そっか……。ねえねえお兄さん、今いつものところ行くと、アタシにお年玉で期間限定とちおとめパフェを奢れるキャンペーン」

「俺に全然ウマ味がない」

「いいからいいから。ちょっと一緒に勉強しようよ」

「そうすっか。ドリンクバーで紅茶飲もっと」

「アンタはコーラとメロンソーダ混ぜてるのが似合ってるのに」

「中学生か俺は」





【2015/4/25】


 懐かしい、町にきた。


 2824→934


「姫様、お迎えにあがりました」

「うむ、くるしゅうない」

「とりあえず行くか」

「そうね。上映まだだよね? ご飯もあっちで食べよ」



 934→744


「どうよ、大学生活は」

「いつも話してるじゃん」

「いやいや、そうなんだけどさ。色々変わっただろうと思って」

「アタシ自宅から通ってるし、そんな変わらないって。制服から私服になったくらい」

「今むしろ制服を着れば俺の目の保養になる気がする」

「やかまし。あとはでも教員の教育課程、思ったより大変そう……」

「授業なあ。80分は長いしなあ」

「え、アタシのところ90分なんだけど! いいなあ!」


「学園祭に決めたのか?」

「うん、金曜が入会日だった。広報担当やるの。デザインソフトでビラ作ったりするんだ」

「お前そういうの好きだもんな」

「大きなポスターとかも作りたいなあ」

「いいねいいね。完成したら撮って送ってよ、俺が評価してやろう」


「変わんないねえ、この街も」

「アンタ東京行ってまだ1ヶ月でしょ」

「そりゃあ変わるわけないな」

「いいなあ東京。今度遊び行く」

「おう、来い来い。東京都民が案内してしんぜよう」

「まだ訛り抜けてないからね、アンタ」



 744→554


「わざわざ家までいいのに。駅戻るの大変じゃない?」

「まあまあ。滅多にこっち来ないんだからさ。あと、せっかくだから夕飯は実家で食べる」

「何だ。心配して損した」

「んじゃ、また連絡するわ」

「ん、ありがとね」





【2015/10/10】


 あの子が、来る。


「へえ、思ったより都会ね」

「来るの遅いっての。もう半年経ってんぞ」

「ごめんごめん、学園祭大変でさ。それにしてもお店いっぱいね」

「フッフッフ、これが俺の東京ライフですよ」

「野菜の無人販売ないけど買い物できてる?」

「ほほお、都民にケンカを売るとはなかなか」


「で、どこ行くの?」

「池袋も新宿も近いぞ」

「どっちも行ったことあるからなあ……あ、カフェ行きたい! 本屋で有名なカフェ探してさ」

「んじゃそうするか」



 117→×


「やべ、残額足りない」

「オートチャージにすれば? クレジットカードあれば自動でチャージされるのに」

「カード持ってるのか、すげえな」

「親が『これも勉強だ』って言ってさ。バイト代と口座の残高見ながら使えって」



 117→2117→1947


「すごい、カップ1つでこんなに美味しそうに見えるもんかね。写真撮ろっと」

「最近忙しいのか?」

「そうだね、もう本祭1ヶ月前だし。企画も担当してるからさ」

「飲み会は楽しそうだけどな」

「勝手に写真見たな」

「閲覧制限なしでアップした時点で全世界の共有物だ」

「まあね、毎日頑張ってるんだから、週に1回くらいはさ。そっちはどうなの? 映画制作」

「意外と面白い。この前始めて役者やったぞ」

「ほう。どっかにアップしたら教えてよ。大根っぷりを見てあげましょう」

「絶対教えない」



 1947→1787


「出ましたー! パンケーキ! 1口食べる?」

「いや、そこまでクリーム塗れだと、見てるだけで十分だな……」

「残念、じゃあアタシが全部胃に入れましょう」

「そういや、バイトも大変そうだな」

「んー? でも接客思ったより面白い! スタッフみんな年近いし」

「そっか。浮気すんなよ」

「おおっ、都民が田舎民に嫉妬とな」

「うっさい」



 1787→1477


「ここでいいよ、ありがと」

「学園祭、見に行くかな」

「当日はバタバタしてるから、来ても相手できないと思うけど」

「じゃあ行ってもなあ」

「まっ、しばらく返信遅くなったりするけど、アタシが全力で青春してると思って見守っててくださいませ」

「あいよ、またな」






【2016/2/24】


 あの子と、電話する。


 985→565


「飲まないと踏ん張れそうにないよなあ……」





「で、なんでそうなったの? ただの先輩だって言ってたよね?」


「それが、旅行で?」


「……分かんないけどさ。急に、ってワケじゃないんだろ」


「…………そっか…………」





 565→145


「……もうちっと飲んで寝る……かな…………」





【2016/3/8】


 あの子とは、会わなくなった。


「ほら、行くぞ。お前の傷心旅行なんだから、好きなところ寄っていいからな」

「そうそう。宿で温泉入って、おもいっきり酒飲んで、愚痴をぶちまける、と」

「……ありがとな」



 36→×


「やべ、残高なかった」

「んだよ幸先悪ぃな」



 ねえ、あの子の代わりにもう一度言うわよ。

 オートチャージにしなさいって。

 毎回ムダに痛いんだから。



「つーか、それ傷だらけじゃん。デザインも古いし」

「分かった、元カノと一緒に買ったやつだろ? 新しいのに替えたら? 確かタダでやってくれるぞ」

「それともアレか? 思い出だらけで替えられないとか?」

「…………まあ、これはほら、壊れるとかないからさ」



 36→2036


 そして私はまた、改札口に叩きつけられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

I She 六畳のえる @rokujo_noel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ