③
ぽんぽん、と緋月があやすようにかぐやの頭を撫でる。
「どうだ。人間という生き物は、非常に身勝手だろう? 誰かの為に、などと言ってもそれらは全て自分が根幹にある。自分がどうしたいか、だから周りはどうなって欲しいか。そんなことばかりを考えて、毎日を必死に生きて、そして呆気なく死ぬ。大半の人間はそんな自分を恥じ、隠しながら生きているが。俺は自分の行いを何一つ恥じることなく、隠すさずに思うがままに突き進んできた。だから、お前も好きに生きると良い」
「好きに、ですか」
「そう。時間がかかっても構わない。高校を卒業した後は大学や専門学校に進学しても良いし、家に居ても良い。どこかの企業に就職したり、アルバイトをやってみるのも良い。県外や海外に行くのも良いな。何をするのもお前の自由だ。俺はお前という人間を作ったが、お前の
いつのまにか、かぐやの頬を熱い雫が濡らしていた。そうだ。緋月の言う通りだ。かぐやが緋月の傍に居たいと思うのは、彼ではなく自分の為だった。
緋月に必要とされたくて、見ていて欲しくて。ああ、何ということだろう。自分も羽藤真衣子と同じだった。生まれ方が違うだけなのだ。
自分は皆と同じ、『人』だったのだ。
「俺は製作者ではなく、兄として見守っていくつもりだ。今までも、そしてこれからも」
「……ありがとうございます、兄さん。でも、私……自分が何をしたいのか、まだわかりません」
頬と目元を指で拭って、かぐやは再び前を見る。己の中にあった不安の全てが払拭されたわけではないが、それでも気持ちが軽くなったのは確かだ。
緋月は焦らなくて良いと言ってくれた。その言葉に嘘がないことを、かぐやは知っている。
自分は、彼の妹なのだから。
「でも、兄さんの役に立ちたいというのは本当なんです。だから、この思いの中から具体的に何かを見つけたいと思います。時間はかかるかもしれませんが、それでもいつか、兄さんの妹として恥じない生き方を見つけたいです」
「それで良い。お前がそうしたいのなら」
頷く兄に、かぐやは自然に微笑んだ。そして、ふと思う。緋月が自由奔放に生きているのは、かぐやが傍に居るからかもしれない。
それを確かめる度胸はないが、そうであるなら嬉しい。
「はい。それでは、お夕飯の準備をしますね」
「は? いや、だからそれは――」
兄の言葉を遮るように、手を掴む。自身のものよりも、ずっと大きくて温かい手。この手に作って貰えたのだと思うと、自分という存在がとても素敵なものだと思えてしまう。
きょとんとする兄に、かぐやが悪戯っぽく笑う。
「お手伝いします。私は我が儘を言って良いんですよね、兄さん?」
「……やれやれ、そういうことか。わかった。でも、無理はしないように」
くすくすと、兄妹二人で笑い合う。出来ることならば、この穏やかな時間がずっと続けば良い。
そして、緋月が心置きなく自分の道を進めるように。今しばらくは自分の出来ることをしていこうと、かぐやは静かに心に決めた。
神さまの掌で魂は童話と踊る 風嵐むげん @m_kazarashi
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