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世紀の恒星間移動計画『トロイア』計画は、目前に迫っていた。
コールドスリープ装置『セレーネー』によって眠りについた十五名の男女と、数匹の動物たち。人類の新しい夢と希望を乗せて出発をする恒星間宇宙探査船『トロイ』は、発射のタイミングを待ちわびるかのように静かに息を潜めていた。
『トロイ』発射を目前にした『ケネディ宇宙センター』には、数万を超える人が押し寄せて、ロケット発射の瞬間を今か今かと待ちわびている。
集まった人々に向けて建設された巨大なスクリーンには、恒星間を旅する十五名の宇宙飛行士の紹介が始まり――予め録画された宇宙飛行士のわずかなコメントや、仰々しいスピーチが流れ始めた。
そして、一人宇宙飛行士の紹介で一際大きな歓声が上がる。
青い空を割らんばかりの拍手と歓声に包まれ、聴衆の視線の先には――まだ十代前半の幼い少年の姿があった。
コールサイン『クドリャフカ』で親しまれる、最年少宇宙飛行士。
少年はあどけない笑みを浮かべて、聴衆に向って手を振ってみせる。
その後で、わずかなコメントを口にした。
「――僕たちは、この宇宙のどこかに人類が居住できる別の惑星があるって信じてる。そして、人類と同じく知性をもった生命体がいるって確信してるんだ。僕たちはこれから、『トロイア流星群』がやってきたと思われる宇宙に向って旅をする」
『トロイア流星群』とは、有意な軌道を取って地球に近づいた流星群のことで――この『トロイア計画』の発端となった流星群。
まるで、宇宙の全てを記録しているかのような固有の振動数を持った特別な天体で、観測チームはその流星群を宇宙のコンピュータ――チューリングマシーンなのではと考えた。
恒星間宇宙探査船『トロイ』は、『トロイア流星群』がやってきたと思われる未知の宇宙に向って人類初の恒星間航行を行う。
「たぶん、長い旅になると思う」
最年少宇宙飛行士の少年は空を見上げて続ける。
まるで空の先に手を伸ばして、それを掴もうとするみたいに。
「ここにいる人たちとは、もう会えないと思う。でも、ぜんぜん寂しくないよ。僕たちは、宇宙を旅するんだ。それもたくさんの宇宙や銀河を越えてね。それって、とってもワクワクすることだと思う。新しい『オデッセイ』なんだって。だから、行ってきます」
ストラトスフィア・マキア/レコード 七瀬夏扉@ななせなつひ @nowar
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