外宇宙から飛来する巨大隕石に大地を蹂躙されて、地下に逃れざるをえなくなった人類たち。彼らは生き残りをかけて、地球に迫りくる隕石を迎撃するための戦闘機へ乗り込むためだけに作り出された子供たちを宇宙へ打ち上げる。
少年少女たち、プラス戦闘機。巨大隕石の高高度迎撃。青い空を失った人類。
SF的舞台設定が整った物語世界で、まるで神話のような宇宙空中戦が展開される。
戦闘機ときいてちょっと興奮して読み始め、ま、戦闘機は創造したものと少し違ったのだが、それでも危機に瀕した人類と地球の描写が、終末的であるにも関わらず、透き通るように美しく、独特の形式美を感じさせる。地下都市に押し込められた人類や、戦闘マシーンとしてデザインされた少年少女たちのいびつさ。そんな醜いものたちを、ラジオ放送やノラ猫といった細かい小道具や洒落た描写でオブラートに包みつつ、軽快に語られる前半。
そして後半、とうとう次の巨大隕石が地球に襲いかかる。
地下に閉じ込められた人類のうち、戦闘機のパーツとしてつくられた少年少女たちが迎撃のために打ち上げられるのだが、そんな彼らのみが目にすることができる澄んだ空と清涼な宇宙空間は美しい。高高度軌道での命をかけた戦闘。そして成層圏を走る燃える流星たち。
とにかく空と宇宙の描写が美しい。噴射炎を焚いて踊る戦闘機たち。飛び散るデブリ。火と煙を吹いて空を翔ける流星たち。
これらの描写が、まるで満天の夜空を埋め尽くす花火と星空の競演のようで、地球の危機も忘れて、ついつい見とれてしまう。そんなお話でした。
カッコよすぎる戦闘機SF。地球に落ちてくる巨人を迎撃する特別な子どもたち、"マキア"の戦いが、流麗な文章で綴られます。
この作者様の文章、ただの文字ではないんです。あるときは美しい景色、あるときは不屈の意志、またあるときは人を想う気持ちになって、過不足なくストレートに、読者に届くのです。
これぞ小説、これぞ文学、という感じの読ませる文章とでもいうのでしょうか。うん、すごい……。
見所は何といってもマキアの女の子、チャイカの成長です。主人公のスバルに導かれながら、大切なことを学んでいくチャイカにつられ、私たちはどんどんページを進めていきます。
読み終わった読者は、チャイカの成長に感動し、思わず彼女の登場したシーンと見比べてしまうほど。
本格的なSFでありながら、感動のビルドゥングスロマン。そんな贅沢な一作なのです。素敵な読書体験を、ぜひあなたも。
最後に──彼らの空が、この先ずっときれいでありますように。
謎の隕石が次々と地球目掛けて襲来してくる世界。
世界の希望は、そんな隕石を撃退するべく戦闘ロボットに乗って戦う少年少女たち『ガンツァーヘッド』に託されるのであった。
ある日、まだまだ未熟なガンツァーヘッドである少年スバルに、新人の少女チャイカの教育係という命が下る。
新人ながらあらゆることでスバルを上回る力を見せるチャイカ。しかしそれ以上にスバルが困惑したのは、チャイカ自身がまるでロボットかのように人間らしい心を持ち合わせていないことであった。
劣っているスバルがチャイカに教えてあげることができるもの。
それは自分たちが何を守る為に戦っているのか、ということ。
今、その想いを胸にスバルとチャイカは巨大隕石に立ち向かう!
可変ロボが巨大隕石を叩いて砕く!
パイロットは遺伝子操作をされた子供達!
子供達は命を削る戦場へとひた走る!
とここまで聞くとどんなスーパーパイロットやスーパーロボットが出るのかと思うかもしれませんが、ちょっと話は違います。
主人公達が乗っているのは量産機で、仕事もあくまで特別な機体に乗った子供の補助です。
しかし、優秀な部分が有ったとしても、決して特別な力を持たない彼等が、戦場で生き残り続けるその姿は、読む人間の胸の中に残るものがあります。
美しい空の上、美しい星の下、泥臭く温かい物語がそこにあります。
巨大なカタルシスのあとの、黄昏れた時代。人類は空の自由を失い、それを取り戻すために「戦闘機に乗るだけのデザインチルドレン」を生み出しました。マキアと呼ばれる子供たちの、空だけが広い物語…VRで繋がった知覚は広大なネットで子供たちを繋げ、多くの制約が現実でも付きまとう。そんな中、主人公が空を見上げ続けているのは、きっとまだ見ぬ憧れであり、他者が失くしたものが感じられるからかもしれません。戦うためだけに遺伝子を調整され、死ぬまで大人にならない子供たちの戦争。その儚さは、ポストアポカリプス的な世界観の中で小さく小さく、ほんの短い間だけの輝きを放つ…続き、気になります!オススメ!