第63話おばあちゃんとヤクルト編⑪
おんぶをしているおばあちゃんから話かけられる。
「忙しいのに、堪忍やで主任さん。」
「いえいえ。」
「優しい主任さんでよかったわ!」
「とんでもない。」
さらにおばあちゃんはこう言う。
「お客さんみんなで言うてたんよ。ここの主任さんはお年寄りに優しいって。」
「・・・」
「ほんまに、あんたのおばあちゃんとか、さぞかし優しくしてもらったんやろね。うらやましい。うちの孫とか最近口も聞かんのよ。」
「・・・」
お恥ずかしい。
顔から火が出そうである。
さんざん僕のおばあちゃんにした、僕の酷い仕打ち。他人のおばあちゃんにはわからんだろう。
お年寄りに優しい?
そう言ってもらえるのはありがたいが。
そんな言葉をもらう資格、僕にはあるのだろうか?
あの日、うちのおばあちゃんと写真を撮った、大石内蔵助の扮装したパチンコ店員。
彼に僕は少しでも近付けただろうか?
タクシー乗り場までもうすぐ。
おばあちゃんをおんぶしてガクガクになった、貧相な身体の僕は最後の力を振り絞った。
天国のおばあちゃん。
あれから僕には二人の子供が生まれたんよ。
二人とも男の子だよ。可愛いんよ。
子供ができたからわかるんやけど、子供たちのために毎日働いたり、物を買ってあげたりするけど、それは不思議な気持ちで。
将来その子たちに、何かをしてもらいたいとか、お返しをしてもらいたい。とかいう気持ちじゃないんだ。
見返りなんか求めてないんだ。
どう考えたって僕の方が老いるのが早いし、先に死ぬ可能性が高い。
それでも色々なものを子供たちに与えるのは、
精一杯しっかり生きて行ってほしいからなんだね。
立派に生きて行ってほしいと願うんだね。
天国のおばあちゃんも、そう思っててくれたのかな?
だから僕に色々してくれたんだよね。
それが家族なんだよね。
僕あれから精一杯生きてるけど、天国のおばあちゃんこれで喜んでくれるかな?
タクシー乗り場まで到着し、おばあちゃんをタクシーの後部座席に座らせる。
「主任さんありがとう!なんぼかお礼せな!」
と、おばあちゃんはサイフからお札を取り出そうとする。
「いやいや!とんでもない!そんなお礼もらったら、怒られますから。」
「そうなん。こんなけしてもらって悪いわ!」
「いや、本当に結構です。足がなおって、また店に来てもらえたらそれでいいんで!」
「ほな、これだけでも。」
そのおばあちゃんは、ポケットからヤクルトを一本取り出して僕にくれた。
「・・・ヤクルト。」
このヤクルトだけは、いつも僕の人生の大切なポイントで登場する。
なんなのだ?
この小さな飲み物は・・・
「お兄ちゃん!ヤクルトは飲まないとあかんで!ヤクルトは骨を作るからな!!」
おばあちゃんは、僕のおばあちゃんと同じ事を言った。
タクシーを見送ってお店に帰る帰り道。
ポケットに入って生ぬるくなっていた、ヤクルトを飲み干しながら歩く。
ヤクルトはたしかに、骨を作ったよ・・・
僕という、パチンコ店員の骨をね・・・
おしまい。
続・ピン芸人ですが、パチンコ店員やっています。 原田おさむ @osamu
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