第62話おばあちゃんとヤクルト編⑩

祖母の葬儀。

お坊さんが葬儀場にやってきた。

⚫⚫寺のお坊さんである。

そう、祖母が生前にタクシーの運転手と揉めた時、行こうとしていたお寺のお坊さんであった。


「おさむくんですか?生前おばあちゃんがよくあなたのお話をされていましたよ。」

「・・・そうなんですか。」

「芸能関係のお仕事をされているんですよね?おばあちゃんがあなたがテレビに出たとき、喜んでそのお話をされていましたよ。」

「・・・」

「おじいさんの命日に、毎月来られていましたからね。」

「!!!」


そう。その⚫⚫寺に祖母が行っていた理由。

おじいちゃんが亡くなった命日に、毎月お坊さんに読経してもらっていたのだ。

祖父が亡くなったのは、僕が生まれる前。

つまり、20年以上前である。

そんな遥か昔から、毎月祖母は⚫⚫寺に行っていたのである。


「・・・間違うわけがない。」


あの時、祖母がタクシーの運転手に間違ったお寺を告げるわけがない。

20年以上前から通い続けている、お寺の名前を。

そのお寺の名前も、あの日祖母は間違えなく、タクシーの運転手に告げたはずだ!


僕は祖母の棺から眠る祖母に話かけた。


「ごめんよ。おばあちゃん、たしかにあの時、おばあちゃんは⚫⚫寺と言ったよ。」

そうやって、謝罪しても。もう故人にはわからない。

「ごめん。ごめんよ。」

何度も何度も謝罪した。あまりに遅すぎた謝罪だった。


そして祖母の葬儀が終わったのである。


話はそのまま、パチンコ店員の僕の話にもどる。

パチンコ店で足を痛めた、お客さんのおばあちゃんをおんぶして、駅前のタクシー乗り場まで運ぶお話に。


「ありがとうな。主任さん。」

「いえいえ。」


そう言いながらも、予想以上の重さに、おんぶした事を少し後悔していた。

重い。重い。

僕の手も足もガクガクである。

その重さはまるで、僕が祖母に対しての仕打ちの罰なのかと思うくらいであった・・・


だけど投げ出すわけにはいかない。

これが罰だとしても。

そんな事を思いながら、祖母の事を思い出しながら、駅前に向かうのであった・・・

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