軍属パイロットのメグを世間は「女神」と崇め奉った。
メグはただ空を駆け、敵機を墜とし、国のために働く、
それだけを望んだ。周囲の声など煩わしいだけだった。
「女神」は墜ち、負傷して、鄙びた温泉街で療養している。
その田舎町へ郵便物を届けに来る緑色の複葉戦闘機は、
前線の一流パイロットもかくやというほどの曲芸を見せる。
メグとルイ、2人の卓越した飛行機乗りが各々抱く矜持と理想。
戦時下にあれば「正しい」のはメグなのだが、なぜだろう、
メグはルイを前にして、「非国民」を詰ることができなかった。
淡々と静かで端正な筆致で綴られる、軍属パイロットの静養。
あるいは、1人の女性に訪れた束の間の安らぎ、だっただろうか。
空に魅せられた彼女は何を思い、その休めた羽根で飛び立つのか。