第8話
私は、市内にある病院へと足を運びました。
ここに来た理由は、土御門まゆりさんを訪ねてのことでした。
お察しの通り、土御門さえりさんの娘さんです。
あの夜。
初めてさえりさんに会った時、私は違和感を感じていました。それは、私がお出しした紅茶に手をつけなかったことです。
まあ、喉が渇いていなかったのかも知れませが、礼儀として出された物を口にしないのは、マナー違反。さえりさんほどの大人なら知っていて当然のエチケットだからです。
迷斎さんも、さえりさんが
ともかく、一件落着。
魂の戻ったまゆりさんは、かなり衰弱していたのでそのまま入院となり、一夜明けた今日、私はまゆりさんの病室を訪ねた次第です。
「こんにちは、土御門さん」
「あなたは……弁天堂さん?」
まだ、体調が優れないようで、気だるそうにまゆりさんは私を迎えてくれました。
「今回は……ありがとう…………とは言わないわ」
まゆりさんは、私の目を見てはっきりとそう言いました。
そして、今回の件の真相を私に語り出しました。
まゆりさんが、お母さんの
初めは、お母さんを恋しく思い
だからこそ、まゆりさんは私と迷斎さんを許せないのです。
「私はお母さんになりたかったの。それをあなた達は……」
「でも、あのままだったら土御門さんは――」
「死ぬってことでしょう!?それが何よ!! こんな穢れた身体でいるくらいなら、死にたかった!!」
目に涙を溜め、まゆりさんは私に死にたかったと言います。まあ、こうなることは予想していました。
だからこそ、私は今日まゆりさんを訪ねたのでした。
「土御門さん、あなたは
「……曖昧な時もあるけれど、それが何か!!」
「迷斎さんの屋敷に来た時、あれは土御門さんの意思ではなかったのでしょう?」
「!?」
やはり、思った通りでした。お母さんに、
「あれは、あなたの中にいるお母さんが行動したのです」
「私の中のお母さん? 何を言っているの!?」
さえりさんになりたいと思うあまり、本当のさえりさんならどう行動するか?常に考えてしまうようになり、娘を助けるために人を殺すこともいとわなかったさえりさんなら、娘を助けるに違いない。
「だからこそ、あなたは無意識のうちに迷斎さんを訪ねてしまった。そして、それはあなたも解っていることでしょう?」
「……ええ、そうよ!だからこそ、私はお母さんの様にはなれない!! 自分の嫌なところを他に押し付けようとした私が、お母さんのように綺麗でいられるわけがない! だから、私は――」
「ダメだよ!死にたいなんて口にしたら、それは、あなたのお母さんが望んでいることじゃないから!!」
私は、そう言って一枚の手紙を渡しました。
それは、さえりさんが娘のまゆりさんに宛てた手紙でした。男を手にかけてしまったさえりかんは、その自責の念から自殺したのですが、その前にも手紙を残していました。
しかし、不幸にもその手紙は読まれることなく、今日まで封を切られることはありませんでした。それは、証拠品として保管されていたからです。
迷斎さんはあの夜、その手紙を警察から盗んでいたのでした。
「封をは切られているけれど、私は読んでいません。お母さんからの最後の手紙です」
「…………」
まゆりさんは、手紙を読みました。
読んでいる途中から、目に涙が溜まっています。
やがて、最後まで読み終えると、せきを切ったようにまゆりさんは泣き崩れました。
私はただ、まゆりさんを抱きしめることしか出来ませんでした。
数分後、泣き止んだまゆりさんは、静かに寝むってしまいました。私は布団にかけると、また来ますと置き手紙を残して病院を後にしました。
帰り道、私はさえりさんのことを考えていました。私に娘は居ませんが、いつか愛する人と結婚して子を身ごもった時、さえりさんのように愛することが出来るのでしょうか?
母とはとても偉大であり、家に帰ったらお母さんの手伝いでもしようと思います。
ちなみに、テストの方は散々な結果であり、来週には追試が控えていました。
アウトコレクター 弁天堂美咲と泥人形 一ノ瀬樹一 @ichinokokoro
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