第2話 藤原家

私は犬である、名前はハナちゃん。好きなことは寝ること、食べること。


今回は私と生活を共にしている藤原家について語ろうと思う。


ある日の事、私の朝は早い。日の出前には目を覚まし、体を伸ばし始める。

体を伸ばし、自分のベッドからでるとママがこちらに気づき、声をかけてきた。

ママは藤原家のおばあちゃんだ。ママは早朝から私と散歩に行きたがる。仕方なく私は同行してやるのだ。

ママは道中でおやつをくれる。別におやつがほしくて散歩に付き合っている訳では断じてない。足取りが不安なお婆ちゃんを一人散歩に行かせるのは忍びないでしょ?

ママのゆったりとしたペースに私はしっぽを振りながら少し前を歩き、彼女をエスコートするのだ。

長くない散歩コースをのんびりと歩き、太陽が顔を出し始めた頃、家に戻るとユキノが朝食の準備をしていた。


ユキノは藤原家の母である。散歩帰りの私に声をかけて一瞥する。これは私が汚れてないかチェックしているのだろう。汚れを確認されてしまうと大嫌いなシャワー直行なので玄関にあがると私はそそくさと自分のベッドに避難するようにしている。雨でも散歩に行きたがるママだが、雨の散歩後は絶対にシャワーをされるので私は目が覚めても自分のベッドで静かにうずくまる様にしているのだ。

ユキノは大胆で雑な性格である。声は大きいし、すぐ怒る。こちらさえも驚くような奇天烈な行動までやらかす。

今朝もキッチンから廊下に出ては2階の子供部屋に向かってモーニングシャウトをしているのだった。

階段を下りてくる音が聞こえる、リビングに入ってきた3人は眠たげに私たちに挨拶をする。三兄弟のお出ましだ。


ソラ、カイ、リク。彼らは三兄弟だが性格がみんな違っている。しかし、それでも上手い具合にバランスがとれているようで仲は悪くないようだ。

私にも兄弟はいるのだろうか。今の私が知るすべはないし、知らなくてもいいような気もする。私にとって大事なことはご飯と静かな眠り、これだけである。



ソラは長男でわがままで気分屋、なんでも一番にならないと気がすまない。(ただし、自分が好きなことだけ)運動が得意で勉強が嫌い。典型的なクソガキである。


私が藤原家に来た際、三兄弟は私との散歩権を巡って争っていた。ソラが弟たちを押さえ込み、私にリードをつけ、散歩に出かける。負けた弟たちも後から追いかけてきて結局三人で行くことになるのだ。

私の事で争わないでほしかった。それに私は別に散歩が好きではないからな。

しかし、数日後にはソラは私との散歩をめんどくさがり、弟達に押し付けるようになった。争うから価値があった私との散歩というイベントは兄弟で押し付け合いになり、終いには罰ゲーム的なものに変わっていた。

私を複雑な気分にさせる。私は別に行きたくないのに・・・。



カイは次男で温厚でおとなしい、ソラの後ろを必死についていこうとする。しかし、兄とは違い、運動が苦手で不器用であり、兄には厄介者扱いされている。外で運動するよりも勉強の方が得意なようだ。

兄の勉強嫌いに危機感を覚えた両親が上手いこと誘導した結果なのか。(運動センスの無さは生まれつきだろうが)


ソラに置いていかれたカイとはたまに遊んでやる。ただでさえ鈍いカイがやる気を出した私の機動力についてこれるはずがなく、カイはすぐ拗ねる。拗ねたカイを煽るのは少し気分がよく楽しいのだがいじけた彼は私に構わずテレビゲームをはじめた。

おいおい、せっかく構ってやってるのにふざけるな、と、彼に向かってダッシュをする。何本かコードに引っかかりながらも体当たりをかます。一声、威圧

してやるとカイは泣いていた。テレビからはザザッーという不快音が流れており、私はまずいことをしたと本能で感じ、その場を去った。



リクは末っ子でのんびりしていることが多く、昼寝をしているのをよくみる。構われるよりかはそっとしておいてほしいと思っているようで、どことなく私と同じ雰囲気をもったやつだ。

ソラとは少し歳の差があり、一緒には遊べず、兄についていこうと必死なカイには見向きもされない。それゆえに出来上がった性格なのだろう。

リクはよく母ユキノと出かけている。なにをしているのかは知らないが私には関係がない。家に誰もいないほうが静かで私は幸せである。

とはいってもあまりにも放って置かれると静かな時の中で私に邪な考えが生まれ、身体が本能に支配されてしまう。

私が編み出したハナちゃん机上到着ルートを使い、テーブルの上にある食べ物に手を出す。食い散らかし終えた頃、正気になる。しかし、やってしまったことはどうしようもないので私はそっとベッドに戻り、また静かに眠るのだ。

あとはドアが開いた時、悲鳴が聞こえる前に全力で媚びるだけである。



三人がリビングに入り、席に座る。テーブルに出されている朝食を食べ始める。

私のお皿にも朝食が注がれ、私にとって至福の時が訪れるのだ。

ご飯を食べているとガラス戸が開き、庭から藤原家の父オサムが入ってきた。

しかし、私はそれどころではない。今はご飯と向き合わなくてはならないのだ。


今日も朝食はシリアルフレークのようだ。母ユキノは子供たちが降りてくる前にシリアルフレークに牛乳を入れてから子供たちを起こす。早く降りてこないとシリアルが牛乳を吸い、ふやけて不味くなるらしい。嫌がらせなのか天然なのかわからないが子供達はふやけたシリアルフレークが嫌いなようで起こされたらすぐに降りてくるよう心がけているらしい。


席に座ったオサムには焼いた食パンが置かれた。オサムは牛乳が嫌いである。それでもユキノは嫌がらせなのか天然なのかわからないがシリアルフレークを朝食に出したことがあった。普段、感情を表に出さないオサムもさすがに怒っていた。しかし、ユキノはオサムに出したシリアルフレークを下げ、私のお皿の横に置くのだった。私もオサムも呆気にとられてしまったが牛乳を吸い、ふやけたシリアルフレークを一口食べた私はオサムの驚いた顔など忘れ、むしゃぶりつき、皿の底まで嘗め回していた。



どこにでもあるような家庭で私は生活しており、藤原家の一人娘として自由気ままに暮らしているのであった。












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ハナちゃん 絵馬ノン子 @emaemanonnon

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