ハナちゃん

絵馬ノン子

第1話 藤原ハナ

 この物語は都会でもなく田舎でもないごく平凡な町にすむ家族の物語である。


 物語の進行は私、ハナちゃんがお送りいたします。



 さて、まず最初に私の生い立ちと家族・藤原家との出会いを語ろうと思う。


 私は犬である、名前はない。生まれはどこかわからない、親の顔も知らない、気づいたらガラス窓のある檻にいた。ガラス越しに得体の知れないものが姿を現したり、ガラスをコンコンと叩いてくる。あるいはこちらに話しかけているようだが一体何を言ってるのかはわからない。

 当時の私はなぜここにいるのか、なにをすればいいのか色々考えていたように思うが今では覚えていない、きっと大したことは考えていなかったのだろう。


 退屈な日々を過ごしてきてわかってきたことがあった、ガラス越しに現れるものの正体は自分とは違う生物である、私にごはんをくれたり、トイレの片付けをしてくれる。本能で理解した。こいつらは敵ではない、私の世話を焼いてくれる使えるやつらだ、と。


 やつらに気を許し始め、ガラス越しに現れたときは挨拶をしてやることにした。 「ごはんくれ! ごはんくれ・・・」 私は常に腹ペコなのだ。


 あの日もガラス越しに見えたやつらに対してご飯の催促をしていた。すると、ガラスが開き、ご飯をもらえると思ったが私は持ち上げられ、やつらの腕にそっと乗せられた。


 それが現在の家族、藤原家との出会いだった。


 私はいままで居た檻よりも狭い檻に入れられどこかに運ばれてた。狭い檻の中で寝てしまった私が目覚めるとそこには見た事のない景色が広がっていた。


 床はフローリングで少し歩きづらく場所によってはふかふかとした絨毯が引かれていた。至る所に物が置いてあり走り回るのには少し窮屈そうだったが当時の私は檻の中しか知らなかったため、目の前に広がる光景はまさに新世界だった。


 感動と戸惑いで混乱している中、彼ら藤原家の面々が次々に私を触り、持ち上げ、体中をワシャワシャとする。そして私に呼びかけていた、それを本能で理解した。


          「私の名前はハナちゃん」である、と。


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