世襲騎士ベイル・マーカスは、辺境の都市トリアナンへ左遷された。
その地で彼は「人形の祠」に関する怪談の蒐集を始める。
……というファンタジー+怪談というあまり見ない組み合わせの本作。
「怪談なんて怖そうだし……」という方にもオススメである。
何しろファンタジーなので、いわゆる魔物・モンスター的なゴーストと
幽霊の違いをきちんと設定して説明しているところもポイントが高い。
若干、ファンタジーに置き換えただけでは……と感じるところも無いでは無いが、
(おかげで最初は主人公の正気を疑った)
著者によると「若者の怪談離れを防ぐため」らしいので、
こういう世界観だと理解してしまえば問題はない。
……と、偉そうに並べたところで、
語られる舞台はきっちりラノベ系ファンタジーなのである。凄い。
そうかといって蒐集される怪談に毒気が無いかというとそうでもない。
蒐集家としてのベイルの能力はかなりレベルが高いと言えよう。
更に、ただの怪談蒐集やファンタジー風にしてみたというだけにとどまらず、
語り部を含む登場人物を巻きこみ、一つの結末に収束していく構成も見事である。
これは「人形の祠」の謎を紐解くミステリーでもあるのだ。
他のかたのレビューで「ファンタジー界の京極夏彦」と称されているが、一理ある。
「名探偵 みなを集めて さてと言」う代わりに、
この都市、ひいては読者に憑いた「憑き物」をきちんと落としてくれる解決は、
この世界観でなければできないカタルシスを確かに持っているのだ。
そして……最後はぜひともその目で確かめていただければ、幸いである。
帝都から都市トリアナンに左遷された法務官ベイル・マーカス。
彼の趣味は、怪談を蒐集すること。
トリアナンで有名な『人形の祠』についての調査を始めるが。
魔法もアンデッドも存在する世界観ですが。
この世界の理屈で説明できるアンデッドとは、幽霊は全く別。
説明のつかぬ、恐ろしいもの。
幽霊を信じ、嬉々として人々に話を聞くベイルは、変人の域。
けれども、個々の事象に対する態度は、現実的で冷静。
見間違いかもしれない。病気や、ごまかしかもしれない。
盲目的に怪異だと信じるのではなく、選り分けて、本物を求める。
世襲で騎士になれる家柄で専門は法務、武芸の腕はないベイルへの。
努力して騎士にならねばならない者のやっかみと侮りや。
領主と教会の関係や、トリアナンの歴史。
怪談の周囲にある現実の問題も、非常に説得力があります。
夜の変な時間に読み始めてしまい、そのままやめられず一気読みでした。
レビュー前に再読しましたが、二巡目でもとても面白かったです。
『怖い怪談』というのはネット上でもたくさん読むことができる。
だが、『怖くて面白い怪談』というのはなかなか見つからない。
『人形の祠』にまつわる多くの怪談。
恐怖に狂わされていく人々の人生。
その物語に笑みを浮かべる怪談蒐集家。
怪談という舞台で登場人物が踊り狂う。
この作品は間違いなく『怖くて面白い怪談』である。
更に怪談とは関係のない話も幾つかあり、それがこの作品により深みを持たせている。
意外なこともあり、とても面白いと思った。
怪談としても優秀で、小説(物語)としても面白い。
そして、ミステリーのように謎も散りばめられている。
上質な作品なので、ぜひお薦めしたい。
きっと読者は一味違う怪談を楽しむことができるだろう。