エピローグ 二人が見つけた明日、未来

◇◇◇―――――◇◇◇



1週間後。



「………ホントに、もう大丈夫なの?」

「ああ。身体機能は特に問題ない。今、宇宙港は人手が足りないみたいだから、すぐに戻らないと」


 ニューコペルニクス市の街並みは、まだ所々で爪痕を残しつつも、ようやく元の穏やかな姿を取り戻し始めているようだった。行き交う人々の表情も、何となく明るさを感じさせる。

 ソラトは、真新しい服をちょっとつまんだ。白と青のパーカーと、ズボン。靴のサイズもぴったり。パーカーが半袖なのは、これから暖かくなるからだろうか。



「どう? 似合ってると思うんだけど」

「うん、レイン。………ありがとう」



 へへ、とレインは少しはにかんで見せた。

 自分が守れた大切なものに、ソラトも自然と笑みがこぼれる。嬉しいという感覚が胸を暖かく満たし、それが「幸せ」だと、ソラトは感じていた。



「でも、またしばらくお別れね。私も大学に戻らないとだし」

「うん。………でも、こっちで部屋を借りたいなって思ってる。そっちの方がレインと………もっと会えるから」



 ステラノイドがいつも寝起きしているのは、仕事場のある宇宙港内の宿舎で、特に個室等を必要としなかったので、4人1部屋でこれまで過ごしてきた。

 NC市で部屋を借りるとなると、お金もかかる。生活にかかるコストも。それでも、ソラトに与えられる賃金と、NC市内での一般的なアパートの家賃、平均的な生活費等を計算し、特に問題はないと結論づけていた。



 レインは「そっか」と答えて前を向いたが、口元が緩んで、笑っているのがソラトにも見えた。



「でも、一人暮らしは大変だぞ~。料理とかできるの?」

「レシピと動画を見れば問題ない。全部記憶できる」

「そうかな~。料理は経験がモノを言うから」

「レインは、得意なのか?」

「………まあ、人並み程度には」



 なぜかそっぽ向いたレインに、ソラトは「そっか」と答えながら、



「レインの作るものなら………きっと、どれでもおいしいと思う」

「ホントに? じゃあ、まずはカレーから作ってあげようかな!」



 レインの嬉しそうな表情に、ソラトの気持ちもまた暖かくなる。これが「嬉しい」という気持ちだ。

〈GG-003〉の鉱山から、ずいぶん遠くまで来てしまった。あの時には、自分がここまで、〝感情〟を理解できるようになるなんて思わなかったのに。



 レインはふと振り返り、ソラトの方を見やった。



「もう、〝リベルター〟以外でも、自分の生き方を見つけられるんじゃない? ソラトなら………」

「それは………合理的じゃない、と思う」



 ソラトは、自分でも声が硬くなっていることを自覚した。



「俺は………俺たちは仲間をたくさん失った。生き残った俺には、死んだ仲間の犠牲で生き残ることができた俺自身や、仲間たちへの、その………責任があると思ってる。レインも、仲間たちも守りたい。そのためには〝リベルター〟で自分のできることをするのが、一番だと思う」



〝リベルター〟にいれば、いつかはまた戦わないといけないかも………いや、必ずまたデベルに乗って戦うことになる。

 それでも………自分が大切だと思うもののために、戦う日が来るのなら、戦うことを拒みたくない。恐れたくない。



「そっか。じゃあ、しょうがないね………」



 レインは、少し気を落としたような声音で、先へと行ってしまった。

 ソラトは「あ………」と引き留めようとする。だが、どう言えばいいのかが咄嗟に思いつかない。

 すかさずソラトは小走りでレインの前へと回り込み、レインの………頬に軽く口づけをした。



「………ほっぺなのね」

「ゴメン。人がいる所で口にキスするのは………不適切だって」



 レインを前にすると、理論的な思考が妨げられて、適切に言葉を組み立てることがなかなかできない。口が強張って、上手くしゃべれなくなる。

 それでも、ソラトは言葉を紡ごうとした。



「俺は、レインのことが、好きだ。だから、守りたい。戦うことを恐れない。でも、もし………」



 レインが望まないなら、〝リベルター〟を離れて、他に安全な仕事と生きる方法を見つける。

 そう言おうとしたソラトの頬を、温かいレインの唇が触れた。



「レイン………?」

「ふふっ」


 すぐに離れたレインは少し顔を赤くしていた。



「私も………ソラトのことが好き。だから死んでほしくないの。でも、ソラトが自分でいいと思った方法で、私の事を大切にしてくれるなら、それでいいよ」



 その時、鐘の音が鳴り響いた。ニューコペルニクス市の12時を知らせるクラシックな鐘の音だ。



「お昼になっちゃったね」

「うん」

「戻る前に、どっか食べに行こっか。ソラトはどこがいい?」

「俺は別にどこでも………」

「好きな食べ物とか、ないの?」

「えっと………それじゃあ………」



 ためらいがちに、ソラトは自分の、今食べたいものを言った。


 やがて二人は並んで、街並みの賑わいの中へ溶け込んでいく。

 レインは明るく笑い、ソラトも、静かに微笑んでいた。





 それが二人が見つけ、手に入れた今日で、明日だった。







(終)

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裂鎖解放の戦機ラルキュタス 琴猫 @kotoneko112

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