犯人そして次へ

「有栖川くんの財布が無いんだ!」

「は?」

話を聞くと結構な大金が入っていたらしい。そして昨日の夜まではあったという事だ。

「一応皆の鞄も確認してみてくれないかな」

はしゃぐのは分かるが大金を持ってくるんじゃねえよと思いつつもリュックを漁る。すると底に見たことのない財布が出てきた。

「は?」

「どうしたの?」

「有栖川、一応聞くがこれお前のか?」

有栖川が静かに頷く。

「じゃあ犯人は黒川くんってこと?」

佐伯が驚きを隠せずに俺を見る。

「ちげーよ。俺が盗む理由がねえだろ」

「さすがに陸じゃねえんじゃねえか?こいつコミュ障だから嘘ついたら顔に出るし」

岳が珍しく落ち着いて言う。失礼だけども。

そこでふと今朝の出来事を思い出す。

「俺さ、物音を聞いたんだよね」

起こった話をするが、誰もが黙ったままだ。話は進まない。

俺は見落としが無かったか、もう一度思い出す。ダメだ、部屋の中は静かだったし誰も起きてる感じはなかった。静かだった?

『カラオケ楽しかったなー。また4人で行こうぜ』

『いびきがうるさすぎるんだよ』

「そうか。そういうことか!」

「え、どういうこと?」

「イビキだ」

俺は鼻から息を吸ってゆっくりと吐く。

「犯人はお前だろ?岳」

「何で俺なんだよ!理由を言ってみろよ」

あくまで推測に過ぎないがここで言わなければならない。

「俺が今朝物音に気づいて起きたとき皆静かに寝てたんだよ。その時は静かだからみんな寝てると思ったんだ。だけどもしお前が寝てたらでかいイビキをかいてる筈だよな。つまりお前はその時起きてたんだよ!」

有栖川と佐伯は驚きの眼差しで黙っている岳を見つめている。

「お前、本当は神宮寺たちに馴染めてないんだろ? だからいつも俺といるし、今回も同じ班なんだろ。そして俺が佐伯と有栖川といることに嫉妬した。それでお前はわざと有栖川の財布を俺の鞄に入れて、お前だけは俺を庇うことで振り向いてもらおうとしたんじゃねえのか?」

岳は拳を握って体が震えるのを抑えている。

「そこまでお見通しとはな。神宮寺たちと仲良くなろうとしたんだけど、元から仲がよかったアイツらに入っていけなくてさ。それで陸が2人と仲良くなっているのに嫉妬しちまった。本当にすまねえ」

岳は堪えきれず涙を畳にこぼす。

「いや俺こそすまなかった。俺がリア充と友達になっていい筈がないって自分に言い聞かせてた。ぼっちだって言い聞かせて友達から逃げていたんだ」

「いや、俺が悪いんだ。お前は悪くねえ」

「俺も悪いよ。それとな俺にじゃなくて2人に謝れよ」

佐伯と有栖川はすぐに許すと岳の背中を叩く。

「泣いてないで早く顔洗ってきなよ。笑顔の本島くんの方がいいもん」

「まだ修学旅行は始まったばかりだしね」

俺はコホンと咳き込みすると手を叩く。

「これからは4人で仲良くやっていこうぜ」

ずっとネオぼっちだと思っていたのに友達はこんな近くにいたんだな。


「そう言えばどうして分かったんだ?」

岳は朝食を頬張りながら不思議そうに聞いてくる。俺は自信満々に答える。

「ネオぼっちは、話すのは苦手だが聞くのは得意なんだよ」





そしてほんの少しの時が流れ景色が桃色に染まって来た頃、俺は3年生となっていた。

去年に引き続き担任となった熊野が教室に入ってくる。

「早速だがグループ分けをしてもらう」

岳、有栖川、佐伯とは違うクラスになったが心配はない。ネオぼっちでも周りをよく見れば『友達』はいることを学んだ。ネオぼっちの力を見せてやる。






「誰か黒川を入れてやれるグループはないか?」








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ぼっちはいつまで経っても治らない Salt @0920

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