その朝に

「遂に来たぜぇ、沖縄ぁーー」

「おい、元島勝手に出るな」

「すんません」

元島は熊野に捕まると列に戻っていく。

「ガキじゃねえんだからはしゃぐなよ」

「陸も楽しみだろ。顔に書いてあるぞ」

確かに楽しみである。沖縄は小さい頃に言ったらしいが全く記憶にないので初めてに等しい。


修学旅行の長い注意事項と校長のありがたい御言葉を妄想ごっこで乗り切ると淀木高校御一行は移動を開始する。

ちなみに妄想ごっこは無駄な考え事ではなく、その場で事件が起こった時にどう対処するかを脳内でシュミレーションする次世代アトラクションである。

空港の自動扉を通ると冬を感じさせないくらい暖かかい風が全身を包み込む。

バスに乗り込むといつも通り俺の隣にの席は開いていた――と思いきや岳が座り込んできた。

「何故お前がいる?」

「佐伯が吐きそうだうだから先生の隣の席に連行された」

「何故嬉しそうなんだ?」

「そりゃ1人かと思ったらお前が余ってんの思い出してさ、話し相手ができたんだから」

バスの席で今まで隣がいた事がないネオぼっちの記憶に新たな歴史が刻まれた。それが少し嬉しく、そして恥ずかしくて眠くもないのにアイマスクを着ける。

「じゃ、俺は寝るから邪魔すんなよ」

「そんなぁ」

そう言いつつも黙る岳は本当に単純だと思う。


バスが首里城の駐車場に止まると岳は体をソワソワさせて話しかけてくる。

「楽しみだなあー!」

ちょっとは黙ってろ、と言う言葉は心に留めて優しい眼差しで見つめることにした。

首里城ではあらかじめ決めた班で行動する。この班が今日の民泊のメンバーになる。

メンバーは俺、岳、佐伯、有栖川の4人だ。結局このメンバーかと少し安心する。俺は修学旅行の班決めのとき休んだにも関わらず、当日の今まで誰もメンバーを教えてくれなかった。酷くね? 泣くぞ。


首里城での班行動が終わるとバスがそれぞれの民泊まで行き生徒を下ろして回っていく。

俺らの泊まる民泊はイメージの中にあった木造のものではなく、コンクリートで作られた現代風の建物だった。50過ぎの夫婦の手厚い歓迎を受けると早速中に入る。中は外見とは違って和風の造りになっていた。

もう日が沈みかけているので手早く説明を受けると風呂に入り、食卓につく。

旅館で出るような豪華なものでは無かったが家庭の温もりの感じられる美味しいものだった。高校生を受け入れているくらいだから子供がよっぽど好きなのか沢山の話を聞かせてもらった。


寝室に行くと大きめの畳の部屋に4人分の布団を敷いてあった。

「おお! みんな一緒の部屋か。これで恋バナができるってもんだぜ」

「は? 愚痴に決まってるだろ」

多数決になったが有栖川の未投票と佐伯の岳への一票により恋バナになってしまった。恋愛なんかよりリア充のなり方について教えてくれ。


物音がして目を覚ますと空がほのかに明るくなっていた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。

物音が気になり妄想ごっこでもしもの時の妄想経路も確保しながら廊下に出るが昨日と変わらない廊下が続いていた。もう一度部屋の中を見回して見るが3人とも静かに眠っている。

自分の気のせいだったと納得し布団に潜ると再び夢の世界に誘われていく。


「黒川くん起きて!」

なんだ、と目を擦りながら起こしてくれた佐伯を睨みつける。

「大変だよ! 有栖川くんの財布が無いんだ!」




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