第21話-09(終) R.P.G.
魔王城の全ての
事態を悟った勇者軍の将兵たちが、ざわり、ざわりとざわめき始める。ざわめきはほどなく勝利の雄叫びにかわり、狂騒的なうねりを伴って天までも伸び上がった。ついに討ち倒したのだ。この半年間で何万、何十万の命を奪い、数え切れぬほどの悲劇を生んだ
勝敗は決した! ここまで魔王城をひとりで支えていた
一隊は背後へ転進、老将ブラスカと呼応して魔貴公爵ギーツを挟撃。もう一隊は最終城壁を突破し、魔王城中枢の占領へ向かう。
魔貴公爵ギーツ率いる魔王軍本隊は、伏兵によって隊列をずたずたにされたところへ更なる追い打ちを受け、大混乱に陥った。戦おうと前に出ればたちまち槍で串刺しになる。隙間をぬって逃げだせば法撃と矢の雨に射抜かれる。といって守りに徹しても、多方面から押し込まれ、行き場をなくした者から
一方、魔王城中枢においても
ひとたび最終防壁を抜いてしまえば、中にあるのは防衛には不向きな宮殿ばかり。戦闘員も配置されておらず、残っているのは
そんな別天地に眼を血走らせた軍勢が雪崩れ込めば何が起きるか?
精緻な細工を施された
侍女たちは美しい顔を悲痛に歪めて奥の一室に転がり込んで、重い家具を必死に引きずり扉へ内からつっかえをした。外へ敵が攻め寄せてくる。粗野な掛け声とともに扉へ
また、宮殿最奥の玉座の間には、
この危機に、しかし
だから勇者軍にも恨みはない。敵もただ“生き残りたい”、その一念で必死なだけだ。その必死が、生への渇望が、より良い世の中にしたいという正しい思いそのものが、敗者に残酷な苦痛を強いる。
彼らを
十数度目の打音の後、ついに扉が突き破られた。敵兵が潮の満ちるように駆け込んでくる。玉座の周りで団子になった
「化け物だっ……殺せ!!」
……と、そのとき。
!!
音にさえならない。
声にさえできない。
“意志”という概念を超えて圧縮された情報の塊が、稲妻と化して戦場の全員の脳を貫く。それと同時に天守閣から空へ駆け
次の瞬間、無数の《闇の雷》が戦場めがけて降り注いだ!
「が!」
「ぎゃっ」
「ひ……!」
「何……」
「避け……」
「ッラ!」
「《盾》ッ。」
「あっ?」
「来た!!」
駆け抜ける絶望。暴れ狂う恐怖。魔王城の下にある全人民が、
ひとり絶対者の憤怒の前に、今、世界の全てが
「来てくださった」
「カスみてえな俺らを救いに……あのおかただけは」
天地を貫く《闇の雷》がヴィッシュの左半身を捉えた。
――ヤベぇ!!
と思うより速く緋女が
「カジュ!」
「任せて。」
緋女の腕の中で痙攣するヴィッシュにカジュがすぐさま治療の術を施す。間一髪だ。あと10分の1秒遅ければ彼は完全に
「ハッ……! ふっ、くっくっ……ほらな!」
「
カジュの制止すら耳に入らず、勇者は――否、ヴィッシュは額に脂汗を浮かせてほくそ笑む。
「ざまあ見やがれっ……
引きずりだしてやったぜ……!」
*
「――哀しいね」
うずたかく積み上がる
友の形を成すことなく崩れ去っていく骨の硬さが、取り返しのつかない残酷な事実を少年の皮膚に突きつけてくる。人間たちが“勇者の剣”と呼んでいるあの存在――至高神《死の女皇》の愛剣にして自身も十二皇が
ミュートはもう、帰らない。軽妙な冗談でからかってくれない。積み上がる難問に共に頭を悩ませてくれない。魔王の重責に苦しむ彼を、二度と励ましてはくれない……
「あ……ああ……ああぁあっ……!
これがっ……これが本当の哀しみなのか……!
すまないミュート! 僕が
灰を抱きしめ少年は震える。
「……そうかい」
少年は、王者の尊大さをもって振り返る。その背から漂うものは血染めの憤怒。その指を走り出るのは
「震えるがいい、悔悟の風に。
君たちがどうしてもそれを望むなら、演じてみせよう、究極の
膨れ上がる《悪意》を止められるものは、もう
「我が名は魔王!
クルステスラ!!」
to be continued.
■次回予告■
戦火渦巻く魔王城についに姿を現す魔王。超絶的な魔力の脅威が人々の奮闘を
次回、「勇者の後始末人」
第22話 “戦い(後編)”
The Battle (Part 2)
乞う、ご期待。
勇者の後始末人 外清内ダク @darkcrowshin
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