最終話 終着駅
間際の夢。
自死を選んだ、私が見た夢だったのかもしれない。
僕に、優しく手を差し伸べて、寂れた無人駅で待っていてくれた
若かった頃、付き合っていた18歳年上の女性。
当時44歳、僕が命を絶った歳でもある。
同じ歳になった…やっと…。
私を、愛してくれた女性。
私が裏切った女性。
彼女と別れてからは…ただ、彼女への懺悔と後悔の日々だった気もする。
20年間、良いことがあれば彼女のおかげであり、悪い事があれば、彼女の仕打ちだと言い聞かせてきた。
ツライことがあれば、彼女に逢いたいと願い。
不安に襲われると、彼女の思い出を辿った。
幾度、逢いに行こうかと思った事か…。
行けなかった…合わせる顔もない。
宝くじも買い続けた。
もし当選したら、彼女に渡そうと思っていた。
僕の幸せは、彼女と過ごした8年間だけだった。
小さな幸せだったけど…毎日、毎日、それが積み重なっていった。
手放してしまった…僕から…。
最後に送ったメール、どんな気持ちで受け取ったのでしょうか?
「僕は幸せにはなれない」
その通りだったよ、解っていたんだ。
毎日…毎日…思い出さない日は無かった…。
きっと僕を変えてくれた
僕に路を示してくれた
だけど…僕は、やっぱり日陰から抜け出せなかった。
アナタを手放してから…
アナタを手放したから?
微笑んでいて欲しかった…微笑み続けていてくれていた。
ずっと…ずっと…。
僕は復讐のその先へ人生の終着駅を設定してしまった。
幾度も…幾度も乗り換えて…辿り着いた駅は…。
誰も待っていない僕だけの…独りきりの無人駅。
のはずだった…。
それが僕に相応しい到達点。
なんで…ココに居るのだろう…。
汚れた窓から砂漠の真ん中に誰からも忘れ去られたような小さな駅。
そのホームに細身で背の高い中年女性が見える。
「ヨーコ…」
僕の目から涙が溢れる。
電車が停まり、ドアが開く。
乗ってきては降りて…を繰り返した過去の僕達が、微笑んで僕を見送る。
電車を降りると、電車が砂のように崩れ落ちる。
中に居た過去の僕達も…砂漠の砂に混じって消える…。
ホームの『ヨーコ』に近づき、抱きしめる…。
「ごめんね…」
絞り出すように口から漏れた言葉は謝罪だった。
何度も…何度も…謝った…。
『ヨーコ』の足元に崩れ落ちる様に…そしてひれ伏す様に、僕は『ヨーコ』の足にすがり付いて泣いた。
何も残らなかったよ…。
僕は…ただ…『ヨーコ』の隣で生きていれば良かった…。
それが一番幸せだったように思う…。
言葉になったか、ならなかったのか…解らないけど、僕は必死に『ヨーコ』に語りかけた。
「やっと…同じ歳になれたね」
『ヨーコ』が僕に手を差し伸べた。
「うん…」
僕は『ヨーコ』の手を握って、立ち上がる。
もう…この手を離さない…絶対に…。
僕達は、砂漠を歩き出す。
その先に砂丘しかない砂漠を2人だけで…。
オアシスなんて無いかもしれない、けれどソレでいい。
僕は…それでいい…これでいい…。
眠ったと思った僕に、『ヨーコ』が呟いた言葉。
「早く追いつけ…」
僕の誕生日だったね、1つだけ歳の差が縮まるから…。
「やっと、追いついたよ…遅かったかな?それとも、早かったかい?」
Fin
インナートレイン 桜雪 @sakurayuki
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